似たもの同士






少女の名は。友人にはボケていると言われるが、本人はいたって普通の女子高生だと思っている。それは自分よりボケた幼なじみが居るからだ。

「みっちゃん!起きろ!」

幼なじみ、それは物語の中だけの出来事ではない。隣同士、窓を開ければ話が出来る距離、高いところが多少苦手でも、行き来できる距離、それは実際にあった。

「みっちゃーん!入るよー?」

あまり大きな声を出すと、近所迷惑になる。だからは早々に呼びかけを諦め、隣の家の窓に手を掛ける。鍵は開いていた。
防犯上危ないと思うかも知れないが、人が入れるような隙間は無い。火事が起これば道連れだ。

「ごめんください」

と断りを入れてから、はよっこいしょと幼なじみ早川充洋の部屋に入った。早川の母からは、「いつもごめんねぇ。玄関から入るの面倒でしょ。…窓から入ってくれて良いからね」と了解というよりも、お願いされている。

「みっちゃん、充洋くん、起きて」

は、早川の体を掛け布団の上から揺すった。しかし起きる様子はない。少し身じろぎをしただけだ。

ちなみに「みっちゃん」というのは幼少の頃の呼び方だ。学校では呼び捨てで「早川」と呼んでいる。しかし家族ぐるみの付き合いがあるので、他の家族と混同しないように「充洋くん」呼びなのだ。

「ん…ぅぅ…」

バスケ部のメンバーでいるときは、幼い印象の早川だが、身長やガタイの良さ、きりりと太い眉は男らしい。小さなみっちゃんはもういない。こうして、部屋を行き来することはおかしいのかもしれない、そう思っていた。
も早川も、もう充分成熟した大人なのである。

「充洋くん、」
…」

むにゃむにゃと名を呼び、早川はの手を引いた。

「うわっ…」

ぎゅうと、抱き枕のように抱きすくめられる。

「ななななななな………………!み、みみみみっちゃん!なんで上半身裸なん!!!!!!」

の顔はがっしりとした胸板に押しつけられ、半袖で露出している腕には、早川の逞しい腕が絡みついた。そのことに、動揺し、声が震える。

流石に耳元で叫ばれ、早川は目を覚ました。

「んー…おはよ!」
「おはよ!じゃない!なん、なんで、あわわわわわわ…」
「……………あれ?」

早川は首を傾げた。体は男として立派に成熟している。しかしそれに伴わない内面とのアンバランスさが、をどぎまぎさせた。

「あれ?じゃなくて!いや、うん、良いんだけど、可愛いみっちゃんが拝めて、とっても嬉しいよ!」

ぐっと拳を握りしめ、は力説する。

「暑かった…」
「そっかー、暑かったのかー。じゃあしょうがないね」

仕方ないのか?という疑問もあったが、は気にせずにいそいそと自室に戻った。

「じゃあ、充洋くん、10分後に玄関の前で待ってるね」
「おう!」

にかっと早川はに笑いかけ、凄い早さで準備を始めた。
しかし、約束の10分を過ぎてもは現れない。早川はまたかと思い、宅のインターフォンを鳴らした。

「おばちゃーん!はぁ?」
「あら……また二度寝かしら」
「あー…」

早川は苦笑いする。の母は早川を快く家に上げ、しかも部屋に入り、呼んできてくれと言う。

「あの子、みっくんを起こすことを義務だと思ってるみたいで。でも、任務を完了しちゃうと、気が抜けるのよね」

と、母は語る。

勝手知ったる、早川は真っ直ぐの部屋に向かい、一応ノックした。しかし返事はない。遠慮無くドアを開け、ベッドに上半身だけを預けて寝ているの肩を揺すった。

!制服皺になんぞっ!」
「ん〜…………起きる、…」
「おうっ!一緒に学校行こうなー」
「んー」

は短く返事をし、二人で玄関を出た。

「あのさ、早川」
「んー?」
「あのさ、私たちって、おかしいのかな」
「…………なっで!」

焦ると早川は早口になり、様々な音が飛ぶ。顕著なのはラ行だ。

「……少女漫画でさ、男の子が女の子の部屋にはいるのは、大変なことなんだって…」
「そういえば…もっ山先輩も、……『気安く女性の部屋にはいっなんて』って、」

おそらく森山はきちんとラ行も言ってのけただろうが、早川の演じる森山はやはりラ行が言えていない。

「…………森山先輩が言うことなら……間違いないね…」
「うっん…」

そう確かめ合った二人の双眸からはぼたぼたと涙がこぼれる。

「よお、ちゃん、と早川おはよ…ってうわ!何?二人してどうしたんだ!?」
「もっ山ぜんぱいぃ!」
「森山先輩ぃ」

森山は元気よく二人の間に入っていったが、両人がぼろぼろと泣いているのを見て、驚いた。しかも二人は森山に両側から抱きついた。は女子の平均ほどの身長だが、早川は180cmを越え、森山よりも数cm高い。森山は眉を顰めたが、無言で受け止める。

「どうした、お腹痛いのか?誰かに虐められたか?」

などと、森山は思いつく限りの原因を提示していく。それがどれほど低レベルかは、森山自身は気付いていない。

「誰っスか?」
「早川の幼なじみ」

森山の後ろを歩いていた黄瀬が横を歩いていた笠松に尋ねると、笠松は即答した。

「ってか、森山先輩…質問が低レベルすぎるっス」
「………まぁ、あの二人にはあれくらいで良いかもな」
「はぁ…」

黄瀬は曖昧に返事をし、それ以降は無言だ。

「よしよし…大丈夫だからな」

と、森山は二人の頭を撫でる。

「ゆっくりでいいからな」
「ぅん…もっ山先輩…俺たちって、やっぱっおかしいっのかなって……!」
「ん?」
「お互いの部屋行き来するのは、もうやめた方がいいですか?」

早川の言葉を補足するようには、森山を見上げて言った。森山は溜息を吐き、女性が抱きついているという状況にありながら、げんなりした気分でいた。

「ん〜…お前ら、もう付き合えば良いんじゃないかな…」

と、森山は力無く言った。

「はい!そうします!」
「森山先輩ありがとうございます!」
「あー…うん、お幸せにな……」