編み紐


沖田くんの髪の毛を乾かす。それは彼がこの世界に来てからの私の日課になっている。彼は相変わらずドライヤーの温風が苦手で、身を縮めている。
構わず、髪の毛に指を通しながら風を満遍なく当てていく。以外としっかりとした毛並みだ。サラサラといえば、サラサラかもしれないが、布紐で髪を縛れる程度には痛んでいる。男の子がそんなに綺麗な髪をしているわけもないか、と妙に納得してしまう。

カチリとドライヤーをオフにすると、すぐさま沖田くんは髪の毛を手際よく結んでいく。
結び終わると身体をソファの上に脱力させた。風呂上りで身体が熱くだるいのだろう。一応クーラーもかかっているし、扇風機も彼が独占しているのだが。上気した彼の頬が、暑いのだと教えてくれる。

彼の結び終わった髪に、私はそっと触れた。
今日は彼の誕生日らしいのだ。この間彼が自分で言っていたのだが、岡さんからの情報だったらしい。誕生日を他人に聞くというのも変な話だが、彼は江戸時代の人間なので、今の人ほど誕生日に頓着が無いのだろう。なるほどと納得した。

ポケットから色調の違う緑色4本の編み紐を取り出す。お店で偶然見つけて、一目惚れしたのだ。普段衝動買いをするほうではないのだが、つい買ってしまった。
誕生日プレゼントのつもりではなかったのだが、ずっと渡すタイミングが分からず、ずるずると引き延ばしてしまった。
それを元々の布紐の上から巻き付ける。
不思議そうに沖田くんは背後にいる私を見た。何かをしているのは分かったのだろう。

「髪紐、なんだけど。よかったら貰って」

彼にあげるものに緑色が多いのは、多分彼の目の印象が強いからだ。
でも、実際彼の身に付けている色に緑は少ない。ゲームの立ち絵は曖昧だが、目立って緑があった記憶は無い。

「髪紐…」
「うん…誕生日のつもりじゃなかったんだけど、渡すタイミング逃して…」

男の人に髪紐をあげるのは変かもしれないと、買ってから気付いた。
だが買ってしまったものは仕方ない。捨てるわけにもいかず、自分でつけるのも変な気がして、結局そのままにしてあった。
沖田くんは髪に手を沿わせて確かめようとするが、その手を下ろして言う。

「結んじゃったら、見えないよ」

そりゃそうだ。
なんだか、直接渡すのが気恥ずかしかった。見た目には只の細長い紐だからかもしれない。

「そうだね、確かに。また外す時に見ればいいよ。大した物じゃないから」

ぽんぽんと彼の頭を撫でる。

「…有難う」
「うん。どういたしまして」

ふわりと微笑んだ彼の顔を見て、私は渡してよかったと思った。

***

その後、私たちは他愛の無い話をしていたのだが、しばらくすると沖田くんはソファの上で船を漕ぎ出した。

「寝るんだったら、自分の部屋に行きなさーい」

彼の頬をペチペチと叩くが、その手を鬱陶しそうに叩かれた。

「ん〜」

こうなると、もう彼は動かない。結局私が運ぶことになるのだ。別に運ぶこと自体に文句があるわけではない。ただ私はその都度、理性を試されている。
この前なんて、布団に引きずり込まれてしまった。元々睡眠など必要のない身体だ。朝までばっちり彼のはだけた胸元を見て過ごすことになった。
今日もそうなるだろうと、覚悟を決めて彼の身体を背負う。彼の体温が私の背を暖める。首に回された腕に少し力が入る。もごもごと何かを言っているようだったが、半分ほど夢の世界に足を踏み入れている彼の言葉は明瞭でなく、聞き取れない。

彼を背負ったまま布団を敷く。その布団に身体を下ろす。首に回った腕は、毎回中々はずれないで苦労する。

「突然どうして、これ、くれたの?」

腕を解こうとしていると、不意に話し掛けられた。

「うん?あんまり意味は無いんだけど。この前店で見つけて、似合いそうだなって」

ふぅん、と返事が返ってきた。その声はかなり眠そうだ。

「あ、でも、元の世界に戻った時はつけられないね」
「なんで?」

舌足らずな声でそう尋ねてくる、その表情は酷く幼い。
よいしょと彼の腕をはずし、寝かしつける。

「邪魔にならない?ピラピラ付いてると」

そんなことより早く寝なさい、と頭を撫でてやる。その手をぎゅっと握られた。

「どうだろ。やってみないと分かんないや」

沖田くんはふにゃりと笑う。寝言に返事をしてはいけない、そういう迷信もあるのだが、彼は今夢の世界の住民だろうか。

さん、大事にしますね…」

そう言うと、ぱたりと布団の上に身体を沈めた。ぎゅっと握られた手は解けない。結局こうなってしまうのだ。
掴まれていない方の手でふにふにとやわらかい頬を突付く。身じろぎはするが、起きる気配は無い。

「安心してくれるのは嬉しいんだけどな…」

不安になるのだ。その穏やかさが、帰ったときに邪魔にならないかと。

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