降旗光樹、誠凛バスケ部の1年ベンチの彼は告白したときにその相手から条件を出された。

何かで一番になったら付き合うと      





 貴方が好きなのです!





は携帯電話をじっと見つめていた。にやにやと緩む表情を隠すため、誰もいない部屋で口に手を当てた。





俺、バスケ始めた。
まだ、あの約束は継続してる?
ダメだったら、言ってくれ。
…ダメでもバスケは続けるけど…。

それだけ。
返事待ってる。



絵文字も顔文字もない、シンプルなもの。しかしはその文面を何度も見返しては携帯を抱きしめた。

「ふぅー…」

息を吐いて、はぽちぽちとボタンを押していく。




継続してます。
ガンバってね。
一年でレギュラーは無理かもしれないけど、
応援してます。



は短い文章にもかかわらず、間違いがないか幾度と無く確認して、かれこれ10分ほど経ってようやく送信した。

そう、降旗の告白した相手とはのことだ。しかし、降旗と認識が違うところがある。の中ではあの約束は条件でなく、「願い」だった。

何事にも無関心な男、それが降旗光樹だった。彼の酷く冷たい瞳をは知っている。高校では変わったという噂を耳にしていた。しかし中学時代に彼を知るものならば誰でも知っている。

彼はヤンキーだった。

授業をサボることがある、遅刻がある、髪の色が鮮やかだ、制服を着崩している、時々他校の生徒と喧嘩をしているらしい、諸々。

常につまらなさそうだった。

二人の出会いを語るには、随分時を遡らなければならない。二人は幼稚園、小学校、中学校と同じだった。にとって、降旗は手の届かない人。いつも輪の中心にいて、にこにこと楽しそうな笑みを見せていた。

それが春休みを終え、中学に上がったときには全く変わっていた。落胆などはしなかった。ただ少し切なかった。あれほどにこにこと楽しそうにしていたのに、と。それも勝手な感情だ。しかしそれほどに降旗は冷たい目をしていた。

だが、降旗の本質は、どんなに突っ張っても彼だった。

「はぁ…」

他校の生徒に喧嘩を売られ、降旗は仕方なく買った。勿論、主に手を出したのは降旗の友人だ。降旗は後ろで指示を出していた。その指示が的確で、相手をあっという間に倒してしまった。降旗は手を出さない。なぜなら彼は驚くほど臆病だからだ。それを繕うために降旗は必死だった。降旗は疲弊していた。

公園のベンチで降旗は項垂れていた。少し薄暗くなり、隣の人の顔が見えなくなる黄昏時。突然、降旗の頭に衝撃が走った。

「って…何しやが「うわっ!ごめんなさい!本当にごめんなさい!」

女性の声が必死に謝罪の言葉を述べる。あまりにも必死なので、降旗は怒る気が失せた。よく見ると知った顔だ。

、さん、……だっけ…」
「え、うん。覚えててくれたんだね。本当に…私のコントロールが悪いばっかりに…」

が降旗の頭に直撃して転がった缶を拾い、今度こそゴミ箱に放り込んだ。いくらずっと一緒の学校に通っていたからと言って、今の降旗は不良。はいつでも逃げられるように、ゴミを捨てるフリをして距離を取った。

「どうして?腐れ縁かってくらいずっと一緒だったのに」
「……うん…」

降旗は穏やかな声で、に訪ねた。降旗の声が優しい音色だったので、は警戒を少し緩めた。

「聞かないの?」

幼稚園から一緒なら、降旗が昔はどういう人間だったか知っているはずである。勿論は知っている。応え倦ねていると、降旗は苦笑いを浮かべた。

「………俺、がこんなんになった…理由…とか」
「……うん。降旗くんにも色々あったんじゃないのかな、って、思う、し……それを私がとやかくとか、言える立場じゃないし…」

たどたどしく彼の逆鱗に触れぬように言葉を選んだ。降旗は溜息を吐いた。怒らせただろうかと、びくびくしながらは降旗を見た。

「…………俺、みんなが思ってるほど、凄い奴じゃなかった。なのに、期待されて、怖かった。違う、それは俺じゃない、そしたら、なんか弾けちゃった。良い子とか、頑張る子、とか、全部、どうでもよくなった。バカ、だろ…おれ……」

降旗が泣き笑いのような表情になり、は慌てた。

「そ、そんなことはないのでは…」

降旗は期待されたくないという一心で良い子の仮面を捨てた。しかし一方で降旗は不良のレッテルを壊さないように仮面を被った。本末転倒だ。結局降旗は誰かの理想をかなえようとする心優しい少年なのである。

「完璧な人とか、居ないと思うし…なんて言うか、色々考えるのは良いこと、だと思う…」
さんって、優しいんだな」
「ありがとうございます…………降旗くんがそう言うなら、そうなのかもしれない」
「えぇ?なにそれ」

降旗は困ったような笑みを作った。

「私は、別に私が優しい人だとは思わないけど、でも、降旗くんにはそう見えるのなら、私はきっと優しい一面もあるんだと、思う…」

ははにかんだ。

「えっと、降旗くんも、きっと降旗くんが知らないだけで、みんなが思う降旗くんっていうのも、いるんだと、思う…良い子で、頑張ってる子で、それも降旗くんの一部っていうか…えっと、何が言いたいんでございましょうか」

しどろもどろになるが、降旗はにこりと笑った。はふわりと宙に浮いたような感覚に襲われる。

「………うん…そっか…うん、うん…」

もうこのとき既には降旗に落ちていた。

さん、ありがと」

これが2年の秋、それから降旗がに告白したのが1年後の冬。

「俺、じゃさんに、…見合わないと思う!けど…でも、俺、」

真っ赤な顔で降旗はに言った。一瞬呼吸が止まった。なんという奇跡か、の頭の中はこれが夢でないとどうやって検証しようかということでいっぱいだった。

「……私そんなに凄い人じゃないんだけど……えっと…何か、一番を目指してみるっていうのはどうでしょう」
「何かで、一番…」
「はい。そうしたら、きっと降旗くんは自分に自信が持てますよ!そのときは、自信を持って、………その…あの…好き……………って…言ってください…といいますか…私的には有りと言いますか、別に今のままでも良いのですが…」
「分かった…!俺頑張る!」