(あれ?いつもと…なんか違う…)

確かに夢の中、しかしいつも見る夢とは様子が違う。森山は不安になった。

「やっ!」
「………………………お、れ?」

元気な声、振り返ると、そこにいたのは森山由孝、自分だった。ほんの少し身長が高い。

「まぁ、お前でも、あるのかな。うん、そうなんだろうな」

一人で頷いて納得してしまった。

「俺はお前で、お前は俺だ。分かるだろ?」

目の前にいる男は、全く自分と同じ顔、同じ声だった。だが、絶対的に違う存在だ、森山はそう思った。

「どういう、意味だよ…」
「さぁ、どういう意味だろ」

男はにやりと笑った。

「魂?っていうの?信じられないかもだけど、それは同じ」
「たましい…」
「あ、信じてないだろ。胡散臭い、って思ってる。まぁ、そうだよな…根本的には俺とお前は同じなわけだし、俺は絶対『何こいつ、イケメンだけど、胡散臭い』って思うだろうし」

(自分でイケメンって思うなよ、まぁ、イケメンだけれども!)

「自分でイケメンって言うなって?でも、イケメンだろ?」
「っ………!」

森山は引いた。

「あ、当たり」

男はにこりと笑った。仕草が、行動が、言動が、森山とリンクする。

「……察しの良い俺なら、もう分かったろ」
「っ…」

な、と甘い声で呟く男は、やはり自分なのだ、森山はそう思った。

「なぁ、あんたは、…『森山さん』って、呼ばれてた、人だよな…?」
「そうだな、そうなるかな」
「そっか…なぁ、あの人は、…」
「………そんなの、分かり切ってるだろ…?」




**



「そっか…」

森山は納得した。横で眠るを見つめ、森山は呟いた。

      「森山さん」は、俺の前世なんだ…

そんな非現実的なことを、しかし森山は酷くすっきりとした頭で確信した。

「あんた、どっちの俺を好きなんだよ…」

分からないから聞いたのに、と森山は項垂れた。



**



森山は、次の日に学校が無く、部活が午後からのときに、の家に泊まりに来ていた。何と言って出てきているのか、それが気になりつつ、は一度も森山に聞いたことはない。前の世界で森山がの家に来るときは、『まぁ、友達?の家に行くって言って出てきてるけど、』ということらしかった。それが、妙にくすぐったくて嬉しかったのを、は今でも覚えている。

「お皿出してくれる?森山さ、!…ん………」

は、思わず森山「さん」と言った。森山の目が見開かれたのを見て、は固まった。そしてすぐに熱が顔に集まる。

(森山さんのこと考えてたからぁぁぁ私のばかぁ…)

「わわわわ忘れて……!」

わたわたと弁明する。しかし、すぐに森山の様子がおかしいことに気付く。表情が硬い。

「森山くん?」
「森山さんって、誰?」

普段通りの声音だ。だが、森山の表情は、を探るような懐疑的な物だった。

「先、輩だよ。高校の時の…」

浮気がバレて必死に取り繕うとしているようだと、は頭のどこかで冷静に思った。

「知ってる…」
「え?」

森山の意外な答えに、はたじろいだ。

(知ってる………?)

は高校時代の話を、森山にしたことはない。は眉を顰めた。森山は俯いたまま、静かに話し始めた。

「夢で見るんだ。肌が黒い男の子と仲良く話してる。それで、俺に気付いて、あんたは声をかけるんだ。『森山さん』って…」

は、「やはり」と思った。「森山くん」は「森山さん」なのだと、確信した。

「俺には分かるんだ。俺は『森山さん』で、『森山さん』は、あんたのことが好きなんだ。でも、見てるしか、できなかったんだ…分かる、」
「森山く「んで、俺らは…約束した」

の意見は聞いていない、とでも言うように、森山はに弁明の余地を与えない。
握りしめられた森山の手が白くなっている。はその拳に手を伸ばそうとした。だが、あまりの剣幕に、は伸ばした手を宙で彷徨わせた。

「それは…「その約束、果たしてるだけなんだろ?哀れだって、思ったんだろ…」

森山は声を荒げた。

「話聞い「あんたは、俺なんか本当は好きじゃないんだろ…だからあんな猶予期間なんて…!俺があんたのこと諦めたら良いのに、って思ったんだろ!」

森山は顔を上げた。怒りからか、哀しみからか、森山の唇はぶるぶると震えていた。

ふっとジンの言葉を思い出した。「もっと素を出せばいいのに」と。

は自分が我が儘で、自分勝手だと知っていた。教師をしている自分が滑稽に思えるほどに、は大人でなかった。森山の前では気取っていなければならないと、そう思っていた。森山は子供なのだから、と。大人らしい態度で接しなければ、と。
だが、そんな気取った自分をずっと続けていられるわけがなかった。なにせ、何百年とそうしてきたからだ。今更帰られる「自分」など無い。

「聞けって言ってんだろばかやろー」

は叫んだ。森山はびくりと体を揺らした。森山以上に、は声を荒げることが無い。不安げに彷徨う森山の手を握りしめた。びくりと森山の腰が引けた。それをぐっと引き寄せる。

「あ、……ぅ…」

まごついた口からは、泣きそうな声が漏れた。

「確かに、それは事実あった話だ。そして、君が見たというのは、私だ」

いつもと違うの様子に、森山は何も言えずに、こくりと頷いた。

「端的に言うと、それは君の前世だ。そして、君、いや森山さんは、言った。私のこと好きだって言ってくれた」


      あんさ、

      はい?

      俺さ、割とのこと好きだった

      はぁ…それは、ありがとうございます

      もし、いつか俺とまた会うことがあったら、次は俺を選んでよ


「でもそれは君の結婚式でのことだ。しかも相当酔ってたし」

は頭をがしがしと掻いた。

「結婚、式…」

森山は呆然と反復した。

「そう。君と、綾音さんっていう女の人との結婚式。ずっと一人の人を好きでいるなんてできるわけないだろ…、見返りもないのに」

      嘘。だって、と出会う俺は、もう俺じゃないし。それに、もう自分の気持ちに整理ついた。今はあんたより綾音のこと、好きだよ

「ちゃんと、森山さんは幸せになったよ」
「あ、…そう、なんだ…」

戸惑いがちに森山はそう言った。は溜息を吐いた。もう全て吐き出してしまおう、破れかぶれだ、とは開き直った。

「正直ときめいたよ?あんなこと言われて少なくとも結婚式に出席するくらいには仲良かったわけだし私は両刀だし顔も性格も私好みだったしでも森山さんとはただの友人だ過激なスキンシップをしなかったとは言わないけど抱きたいって思ったことはないこのままこんな風に友達として一緒に居るんだろうなって思った」

ノンブレス、一息では言い切った。そんなに森山は呆気に取られた。飼い犬に噛まれたような心境だ。森山は「詐欺だ」と思った。自分の知っている「」でない。だが、不思議と嫌いだとは思わなかった。

「けど、君は違う」
「そう、なんだ…?」

不安げに森山はを見上げた。

「私は、君を抱きたいと思うし、君が俺を選んだら、絶対に誰にも渡したくない。ずっと傍にいたいと思う。で、何が問題でも?」
「……………無い、です…」

投げやりだが直接的なの言葉に、森山は返す言葉がなかった。

「あのさ…」
「ん?」
「もう、猶予期間、とかいらない、から…」

森山ははっきりとそう言った。中途半端は嫌だった。

「良いの?」
「うん、なんかあんたより好きな人って、よく分かんないし」

へら、と森山は笑った。

「誰にも渡したくないって、言いながら、多分あんたは、俺の幸せを一番考えてくれるんだって、思うし…」
「そうかもね…」

うん、とは頷いた。

「俺、好きだよ。『さん』のこと」

森山はにっこりと笑った。は数秒の後気付いた。

「不意打ちかよぉ」

はすとんと座り込んだ。顔が熱いのを隠すように、膝に顔を埋めた。

「ときめいた?」

森山はそのを覗き込んだ。にひ、と悪戯が成功したような笑みを浮かべて。

「ときめいたけど」

はじと目で森山を見上げた。

さんは呼んでくれないんだ」

催促するように甘い声で、誘惑する。は首を傾げながら、口を開いた。

「由孝くん?」
「疑問符ついてるし…」

呆れ顔で森山はを見た。
はそんな森山を見返し、にっこりと笑った。



あのね、森山くん。私は「君」の傍にいたいんだよ



それを伝えられるのは、もう少し後







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