キミを構わせて欲しい






いい加減お腹が空いたので、移動することにした。太ももを名残惜しそうに眺め、は森山に付いていく。

「あ」
「ん?」

が声を上げた。森山は振り返って、を見た。

「私の好みの太ももは、あの子、よりも、あっちのあの子、なんです!あの肉感がですね、たまらんのです」

最初は力強く、最後はしみじみと少女の太股を評した。

「……………新しい扉を開きそうだ…」

森山は少女を見るとき、大体の感覚で見定める。だが、同じ女であるは森山とはまた違う見方をする。そのことに、森山は感心した。

「私は、ガリより、こう…腰を曲げたら、お腹に肉がたまってる方が好きですね」
「俺、ちゃんのこと師匠って呼ぶわ」
「じゃあ、私は先輩のことマイスターって呼びますね」

二人はがしっと手を握り合った。

「そこの変態二人、何してんスか」

黄瀬はずんずんと二人に近づき、と森山の間に体を割り込ませた。

「あ、黄瀬君」
「黄瀬、」

二人は両端から黄瀬を見た。そして、森山とはお互い顔を見合わせた。

「何って…ねぇ、先輩」
「そうだなぁ、ちゃん」

そして、再び黄瀬に視線を戻した。

「女の子ウォッチングですよね」
「そうそう」
「平然と答えないでください!」

黄瀬は叫んだ。

「えー、黄瀬君は女の子の部位何処が好き?」
「何、肉の部位何処好き?みたいな調子で聞くんスか!……………………………………………………………………………………うなじ?」

結局答えてしまうのが黄瀬だ。

「なんか変態臭いな、」
「確かに…」

森山は、引いた様な顔をした。もそれに真剣な顔で同意した。黄瀬は声を荒げる。

「ちょ…!別に普通でしょ!?」
「んー……いや、まぁ、『胸っスかね』とか言われたらまじ黄瀬畜生(笑)ってなるだろうけど…」
「なんて答えたら良かったんスか!?つか表現今までにないくらい酷い!」

黄瀬はどっと涙を流した。そのことを気にもとめず、二人は両端から黄瀬をからかった。

「黄瀬のヘンタイー」
「黄瀬のヘンタイー」

子供の様なたどたどしい言い方で、二人はにやにやしながら言う。だが、すぐに二人の視線が黄瀬から離れた。

「お」
「お」

声が揃う。

「今度は何…「見ました?」
「しかと見てしまった…」

黄瀬を挟んで、二人は少しかがんで小声で話した。密談をするようなドキドキ感があった。

「なんか、見ちゃいけない気もするんだよなー。変に。まぁ、見るけど」
「良いんです」
「え?」

森山が聞き返すと、は凄い勢いで話し始めた。抑揚がなく、平坦に、平坦に語られるはずもないことが述べられていく。

「夏スカートってすっけすけなんですよ。階段上ったら絶対にラインが見えるんです。そんなすっけすけのスカート履いてて、スパッツとかを履かないっていうのは、どこかに見て欲しい願望があるんですよ。ちなみに私は履いてます。だから、履いてない人は存分に見てあげれば良いんです」

は熱弁する。森山も悪ノリする。

「師匠!」
「マイスター!」

二人は再び力強く手を握り合った。全ては黄瀬を挟んで行われた会話である。

「もうヤダ…」
「黄瀬、諦めろ。な」
「笠松先輩〜…」

は、下ネタ好きでも一応女子だ。だから会話の内容はそれほど過激ではない。黄瀬は、合宿の猥談を思い出すと共に、森山と三年間も一緒だったという笠松の苦労を想った。

「ってか、イチゴ柄とか、リアルにあるんですね」

感心したようには溜息混じりにそう言った。

「誰派だった?いち100」
「さつきちゃんですね。あの肉感ヤバいです」
「俺司ちゃんかなぁ」
「おれはっ、東城さん好きっ!」

漫画が好きだという早川が会話に入ってきた。清楚系が好きなのか?と旭日は思った。

「可愛いですよねーこずえちゃんもあざとくて好きでしたけどねー」
「あざとくてっ!?」

の言動に早川が呆気に取られた。が、それを気にする風もなく、は会話を続けた。

「初恋限定も、好きでしたね。委員長が」
さん、おっぱい好きっ?」
「大好きですね。先輩達は誰派ですか?」
『千倉ちゃん』

森山と早川の声が揃った。

「あー、いい話でしたもんねー守ってあげたい!って感じの子でしたよね」
「わかるっ!」
「ですよね」

(あ、そうか…)

森山は自分の中で答えのでないもやもやが消えていくのを感じた。

「みんな可愛いなー…っていうか、海常って女子のレベル高くないですか?」

はそう言った。の視線の先には、先ほどのイチゴパンツの少女と、その友人であろう数名がじゃれ合っていた。確かに可愛い集団だ。

森山は、視線をに戻した。
はまるで自分は女子ではないかのような口ぶりだ。確かには美人の類ではない。だが、女子であることには違いない。そのことに、森山は何とも言えない感覚を覚えた。

「ふわっ?」
「あ、ごめん、つい」

森山は無意識にの頭を撫でていた。

「良いですよ。私頭なでなでされるの好きなんで。ぐしゃぐしゃは嫌です」

(なでなで……)

まるで子供のような言い方に、森山は一瞬呆気に取られた。

「そうなの?」
「はい。なんか、好きなんですよね…………あの、恐縮ですが、」
「ん?」
「頭撫で撫でさせてください」

頬を上気させ、はそう言った。の目はいつもより見開かれ、キラキラとしていた。

「ん?」

森山は突然の申し出に、言いよどむ。

「いや、なんていうか…森山先輩の髪気持ちよさそうで…」
「確かにっ!俺も良いっすかっ!?」
「いいよ?」

ふわりと笑い、森山は少しかがんだ。すると、おずおずと二人の手が伸ばされる。






「何やってんだ……あいつら…」
「微笑ましいじゃないか」

笠松は目の前で繰り広げられる光景に顔を歪めた。だが、小堀は、にこやかに見ていた。自分の感覚が変なのかと、笠松は複雑な心境だ。

「………そうか?ってか、何でお前は難しい顔してんだ!」
「あてっ!」

黄瀬がふて腐れた顔をしていたので、笠松は黄瀬に蹴りを入れた。

「別に何でも無いですー」
「本当に面倒くせぇな…お前…」

黄瀬が「友達を取られたみたい」な状態なのだと察し、笠松は溜息を吐いた。






「ふわぁ……猫みたい、気持ち良いっ!!」
「気持ち良い…あ、すみません、夢中で撫でてました…」
「先輩っ!凄いサラサラっ!!」
「いいよ」

後輩二人は森山の髪を褒め称え、二人で「凄い気持ち良かったですね」などと話している。それを微笑ましく思いながら森山は見ていた。

後輩は笠松に懐くし、女の子は黄瀬を慕う。

他の女子とどこか毛色の違うも、やはりその二人と一緒にいた。「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と後ろを付いて回った妹も今は、「お兄ちゃんいたの?」という始末だ。

(俺、寂しかったのかな…)

「イチゴ柄のパンツだったってことは、イチゴ柄のブラだったんでしょうか…というか、男子的には下着は上下揃ってる方が良いんですか?」

は唐突にそう言った。早川は立ち止まり、少し後ろを歩いていた小堀の隣に並び、再び歩き出した。

「おかえり、早川」
「ただいまっす」

早川は笠松ほどではないが、女子にそういう話題を振られて平然としていられるほど、大人でも悟ってもいなかった。だから早々に身を引いた。一方森山は平然と答えた。

「んー…俺は別に気にしないなぁ」
「黄瀬君は?」
「俺に振らないで!」

黄瀬は声を荒げた。何て事を聞くのだ、と黄瀬の顔は赤い。

「えー、じゃあ誰に振れば良かったのさー、…キティちゃんパンツ見せて」
「文脈おかしいっス!結構過激な下着付けたさん!」
「え、どんなの!?」

森山がをじっと見つめた。

「食い付かないでください!セクハラで訴えますよ!」

キャーと、は自分の胸を両腕で包み、逃げる様な格好になる。勿論本気でやってるわけではない。ポーズだ。それは、森山が本気で知りたがっているのでなく、ただのじゃれ合いの一つだと知っているからだ。

「その理屈ならさんは既に訴えられてますが」
「え、何の話?」

黄瀬は遠い目をして言う。しかしはあっけらかんと自分の罪を棚上げにした。

「笠松先輩!」
「俺に振るな俺に振るな俺に振るな俺に振るな俺に振るな」

黄瀬は笠松に抱きつくが、笠松は混乱した様子で首を振っている。

「何かの呪文みたいになってるぞ…」
「主将っ!頑張ってくださいっ!」


そんな笠松を置いて、二人はペラペラと女子のここが良い、胸は何カップ派、どういう体型が一番萌えるか、などなどを語り合っている。

「本当に気が合うんスね…迷惑なくらい…」
「本当に迷惑だ……」
「笠松…」

笠松は呆れた様に呟く。小堀は苦笑いだ。

尚も会話を続ける二人は、端から見れば、仲の良い兄妹のようだ。黄瀬ははらはらした様子で二人を見ていた。笠松は溜息を吐いた。

「黄瀬、」
「なんスか?」
「多分な、あいつ面倒見良いんだよ」

笠松は面倒くさそうに話し始めた。黄瀬は首を傾げた。面倒見が良いというのなら、笠松の方がそうだと思ったからだ。

「へ?笠松先輩の方が良いっスよね?」

笠松の顔がばつが悪そうに歪んだ。

「俺のは、あれだ、キャプテンとしての義務。けど森山は自然に、つーか、多分無意識に誰かの世話焼きたいんだよ」
「で、その相手がさん?」
「多分な」

黄瀬は納得いかない顔をした。

「でもさんって、どちらかというと、お姉さんタイプっしょ?」

笠松は再び溜息を吐いた。説明が面倒だと、笠松は茹だるような暑さの中、思った。喋る度に口の中の水分が蒸発していっているようだ。代わりに口を開いたのは、小堀だった。

さんって一人っ子だろ?」
「はい」
「お前だって、女子とかと話すときはしっかりしてて、笠松とかには我が儘言ったりするだろ」
「ま、ぁ…そうっス…か、ね」

黄瀬はうんうんと頷いた。

「一人っ子って、周りが年上ばっかだから背伸びするんだよ。けど、甘え方も知ってる」

笠松が付け加えるようにそう言った。

「へ、ぇ…」

何となく釈然としない気持ちを持ちながら、先輩がそう言うのならそうなのだろうと、黄瀬は無理に納得した。

「早川なんか、兄弟下ばっかりだから、意外としっかりしてんだぞ?だから、キャプテン押してっし」
「あっがとうございますっ!!」

笠松の言葉に、早川は元気よく応える。

「笠松は意外と我が儘だよな」
「うっせ」

にこやかに言う小堀を、笠松は小突いた。勿論黄瀬にするようにではない。軽く叩いただけだ。

「まぁ、つまり、さんは甘えるの上手だし、森山は甘やかすの好きだし、話も合うから、ああなってんだよ」
「そういうもんスか?」
「多分な」




「先輩って、お兄ちゃんっぽいですよね」
「本当?それは嬉しいなー」

森山はにっこりと笑った。




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