裏表





はぶらぶらと歩いていた。すると、きょろきょろと青年が辺りを見回していた。こんな住宅街で何をしているのか、得体が知れない。知らぬ顔で通り過ぎようと思ったが、横顔に見覚えがあった。

「どうかされましたか?」

振り向いた青年は、甘いマスクという表現がぴったりとくるイケメンだった。

(バスケをしている人は、イケメンが多いのか…?)

というのが、の印象だ。そのイケメンは、秀徳の宮地だった。

「何かお探しですか?」
「あ、えっと、  っていう整骨院知ってますか?」
「はい、家の近所です。…………ちょっと怪しい感じの整骨院ですよね…?」

自信なげにが言うと、宮地は真顔で頷いた。

「ああ、間違いないです」

東京在住(だと思われる)宮地が神奈川のの家の近くにいるのを疑問に思ったが、は納得した。

彼が言う整骨院は、誰が見ても胡散臭い外装をしている。店主も胡散臭い外見をしているが、腕は良いのだと、バスケ部の先輩が言っていたのを、は半信半疑で聞いていた。

「腕は、良いらしいから…」
「らしいですね…。あ、方向一緒です…良かったらご案内しましょうか」
「まじで!迷ってたんだ、助かる」

の提案に、宮地は同意した。



**



「中学生?」
「今年高校に入学しました」
「そうなんだ」

男は、気を利かせてに話しかける。もそれに答える。

「宮地さんは、今年三年生ですよね」
「え?」

宮地は、から少し距離を取った。宮地の顔は、明らかに「ヤバい」という表情をしていた。はそこで気付いた。は試合を見ており、高尾からも話を聞いていたこともあったため、宮地のことを知っていたが、宮地からすれば、とは初対面と言うことになる。

「何、で、…俺の名前…」

宮地はすぐに逃げられるように体制を低くした。も悪ノリをして体を屈めた。じりじりとお互い距離を取る。妙な緊張感が走る。が、はすぐに体制を戻した。

「緑間さんと高尾さんと、以前昼食をご一緒したんです。あ、ここ左です」

は簡単にネタバレをした。すると、宮地の体が脱力した。

「っんだよ…そういうことかー…ビビったー…」
「すみません。試合を見に行って、こちらが知っていたので…そちらも知っている気でいました」

申し訳なさそうにが眉を下げると、宮地は表情を和らげた。

「ああ…、いや、そうだよな…」

「女じゃなかったら、殴ってたな…」という呟きが、の耳に入ってきた。恐らく、聞こえるように言ったのではないだろうと思い、は話を続けた。

「高尾さんから、お話も聞いていたので、他人とは思えなくて…。私はと申します。海常高校1年です。部活は写真部で、バスケ部とは関係ありません」
「知ってると思うけど、…宮地清志です」

そこで、は初めて宮地の下の名を知った。

「きよし…清いって字ですか?」
「え?ああ、それに、志って書いて清志」
「良い名前ですね」
「あ、ありがとう?」

の直球な物言いに、宮地は頭を掻いた。は、高尾の話を聞いて、宮地は怖い先輩だと思っていたので、あまりの普通の対応に驚いた。

「緑間さんとは、どうですか?」
「え?」
「いえ、黄瀬くんは、それなりに馴染んでると思うんですけど、緑間さんはどうなのかなぁ、と思って…。黒子さんが言うには、……キセキの人は結構変わり者が多いって聞いたので、緑間さんはどうなのかな、って…」

特別知りたいとも思わなかったが、共通の話題など、それくらいしか思いつかなかった。

「うーん…機会が在れば、トラックで轢きたい」

にっこりと笑みを浮かべて、宮地は言い放った。は、これか、と納得した。表情と言動のちぐはぐが、怖さを引き立てている。

「それは…過激、ですね…いえ、私なら、…そうですね…『私の知らないところで苦しんで死ね』と思います」

宮地は一瞬驚いた顔をした。

「俺はさんの方が、過激だと思うけど」

宮地は、苦笑した。

「え?そうですか?だって、天才、ムカつくでしょ?天才っていうのは傲慢になるものです。私には一生理解できないんでしょうね…天才は良いですね…何もしなくても、手に入るって、どんな気分なんでしょうか…」
「いや、まぁ…緑間は練習も人一倍頑張ってるし…いや、確かに轢きたいって思うくらい、腹が立つときもあるんだけど…」

(宮地さんって…ツンデレ?ツンデレ?)

と、は宮地に対する意識を変えた。それと同時に、は話の方向性も変えなければならなかった。

「そうですね、黄瀬くんも天才って言われてますけど、練習頑張ってますよ。努力できるのも天才の素質ですよね」

は黄瀬の姿を思い出しながらそう言った。宮地の顔を見上げると、宮地は、眉を顰めていた。

「宮地さんって、緑間さんのこと好きなんですね」

宮地の顔が、さらに歪んだ。はその顔をみて、吹き出してしまった。

「私もありますよ。身内のこと私自身は悪く言いますけど、他の人に言われると、無性に腹が立つんですよね」

むぅ、と宮地の顔がむくれ顔になった。

さん、さ……………はめた?」

ブラック宮地が光臨した。笑みが怖い。は切れやすい宮地の堪忍袋の緒が切れそうなのだと悟った。すぐに弁明をする。

「…まさか。女性の会話スキルですよ…」
「会話スキル…?」
「はい。何と言いますか、女性は自分と同じでないものは、とことん排除?…したがる生き物なんです。だから、んー…できるだけ、その人が望むことを言うようにしてるんです。没個性ですよねぇ…」
「はぁ〜、女って大変だなぁ…」

キレやすい人は、案外気持ちを切り替えやすい。がそうだった。宮地も、先ほどの怒りを忘れたのか、感心したような声を出した。

「はい。緑間さんが天才って言われてて、しかも変人で、それがムカついて、だから、その話題に会わせようと思ったんですけど、……宮地さんは、ちゃんと緑間さんを認めていらっしゃるようなので、私もそれに同意しました」

そう言うと、宮地は唇を突き出して、考え込んだ。

「う、ん…女と話すときは気を付けよ…」
「あはは…そうですよ。女は、狡くなくちゃ生きていけないんです。狡くて、強かでないと、あ、でもさっき言ったこと、どっちも嘘じゃないです。両方、本当です」

宮地は一瞬目を丸くしたが、ふっと笑った。の言わんとしていることが、分かったのだ。

黄瀬は天才と言われていて、それだけの実力がある。しかし黄瀬は、いつも何かを羨ましげに見ている。「尊敬」は「渇望」だ。自分もそれが欲しいと思っている、証拠だ。

は、「これ以上何を欲してるんだろう傲慢だな」と思っている。その一方で、黄瀬をちゃんと認めたいと思っている。

だから、両方嘘ではない。

黄瀬を疎む気持ちと、黄瀬を一人の人間として好んでいる部分と、両方の持つ一面だった。

宮地も、緑間をちゃんと認めている、チームメイトとして。だが、その一方で、疎ましく思ってもいる。それはどうしようもない感情だった。同じプレーヤーである限り、二人はライバルなのだ。

「あ、ここですよ。本当にいつ来ても胡散臭いな…」

はぽつりと零した。

「じゃあ、私はここで」
「え」

宮地がを見た。は、来た道を引き返そうとしていた。

「……少し戻ったところに家があるんですよ」
「そっか、わざわざありがとうな」
「いえ、本当にすぐなんで。運動だと思えば」
「そっか、ありがとう」
「いえ、それでは。ウィンターカップ、頑張ってくださいね」



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