今日の晩御飯な〜んだ!



「今日の晩御飯どうするー?」
「なんでもいいですよ」

冷蔵庫を確認しながら、ソファで寛いでいる沖田くんに話し掛けると、面倒くさそうにそう返ってきた。こっちだって毎日毎日面倒くさいんだぞ。
本来なら食べなくてもいいのに、毎日出来る限り和食を作っている。しかしこの辺りは魚が不味いし値段が高い。

「じゃぁ、ガッツリ王将行くか」
「さっぱりしたものがいいです」

餃子も食べたいし、と言おうとするのを遮り、彼はスパっと私の意見を却下した。

「なんでもいいって言ったよね」
「さっぱりしたものなら何でもいいです」

わがままプーめ…
確かに夏はサッパリしたものを食べたい気持ちもわかる。

「そんな事言って・・・我が家で一番若いの沖田くんだからね」

彼の背後から頭をなでなですると、彼は上目遣いにこちらを見てきた。少し元気がなさそうだ。稽古で疲れているのかもしれない。
だが甘やかしてばかりでは、彼が本来の世界に帰ったときにしんどい思いをする。ここは心を鬼にせねば、そう心に決めて口を開こうとしたが、沖田くんに先を越された。

「僕、人間なんで。こんな暑い日に脂っこいもの食べられません」
「うわぁぁ…ナチュラルに人外扱いされたんですけどぉぉ」

わしゃわしゃと髪を掻き雑ぜると、鬱陶しそうに彼は私の手を払った。そして、此方に向き直り、「というわけで、蕎麦がいいです」と、我が家の「我が侭王子様」はのたまった。

「どういうわけだ。もう、スタミナつくもの食べないと夏バテするよ?」

振り返ってソファの背もたれに顎を乗せて文句をいう沖田くんはもう、堪らんくらい可愛いし、その我が侭も叶えてあげたいとは思うが、私の口は既に餃子の口になっている。ここで引くわけには行かないのだ。そういうわけで、もっともらしい理由をつけて私は彼を納得させようと決意した。
大人げないなんて分かっている。背に腹は代えられないのだ。

「そうだよ。男なら、夏は黙って焼肉だよね」

助っ人よろしくジンがでしゃばってきたが、言っていることは滅茶苦茶だ。

「え?王将って言ったよね。無視?無視ですかコノヤロウ」
「無理です。そんな脂っこいもの食べられません」

そうだ!いけいけ!じゃなかった。脂っこいものが苦手って…。お婆ちゃんじゃないんだから!若者よ、それでいいのか。

「スープ飲んでれば?卵スープに今ならわかめスープもつけとくよ?」
「お腹ちゃぽちゃぽになりますから」

私の意見に間髪居れずに沖田くんは返してくる。
こやつ、出来る…!!
じゃない!

「えー我が侭だなぁ。豚キムチとキムチ炒飯とか食べたかったのに…」
「キムチどれだけ好きなんですか…今日のお昼キムチ雑炊したでしょ…こんな暑いのに…」

キムチは正義だと思う。キムチ万歳。

「毎日キムチでもいける!…まぁ、しょうがない…!今日は焼肉にしよう…」
「何悔しそうにしてるんですか、僕の意見は無かったことにしようってことですか」

くぅ、と悔しさのあまり私は拳を握り締めた。その行為にも的確に沖田くんはツッコミを入れる。悔しいよ。滅茶苦茶悔しい。だって可愛い可愛いキムチさんたちが去っていくのが見える。手を振って、食べてくれないのね…って泣いてるよ!

「まぁまぁ。塩タンとミノなら食べられるよ」
「さぁ、行こう」

そう、沖田くんの手を取って、玄関に向かう。

「ちょ…蕎麦なら家でできるんですよ!?」

頑なに彼はその部屋を出ようとしない。確かにこの部屋は涼しい。だがしかし、もう今日は晩御飯作りたくない!たかが蕎麦を茹でる行為さえしたくない!

「君、一番我が家で若いんだから!それに、我が家はうどん派です!」

どこかのお母さんみたいな口調で言い切り、私もそんな年か、と思ったがよく考えれば私は既に200年以上生きたお婆ちゃんなのだ。孫どころか、玄孫がいてもおかしくない年齢だ。

「僕は人間なのでこんなに暑い日に外には出られません」
「うわぁぁまたナチュラルに人外扱い。否定はしないけど」
「本当のことだもんね」

本当に嫌だと沖田くんは踏ん張ってそこに留まろうとするが、人間が私の力に勝てる筈がない。ずるずると引き摺られていく。本気で抵抗する沖田くんを置いていくという選択肢も頭の中に浮かんだのだ。しかし彼の行為と言葉が私の加虐心を煽ったのは確かで、意地でも連れて行ってやるという気持ちになった。ジンはその間、楽しそうに此方を傍観していた。

「…外に、出たくないです!」
「よし、お尻出そうか。お尻ペンペンしたら外に出たくなるかもしれないし」

にっこりと微笑むと、突然沖田くんの腕から力が抜けて、勿論引っ張っていた私の方に倒れ込んできた。しっかりと抱きとめ、倒れることは無かったが、そういう反応する!?
いや、自分でやったんだけど、自分で言ったんだけど!
ほんと、そんなに嫌がられると………もっとしたくなるから!じゃなくて…!
思わず彼の体をしっかりと抱きしめた。だって体温高くていい匂いするし、可愛いし、抱きしめた私は何も悪くない。うん、そうだ絶対そうだ。

「あの………さん」

上擦った声で上目遣いに私を見てくる沖田くんに、私の手はわきわきしてしまったのだが、寸でのところで理性を働かせた。
あっぶねー…!!もう少しで…もう少し、で私は沖田くんの尻を鷲掴みにするところだった…!!

「ま、まぁ…とりあえず焼肉屋さん行こう!」

全部可愛い沖田くんがいけないんだ…!!私は悪くない!
横目で胡乱げに見ているジンの視線は見なかった事にする。



オマケ
焼肉屋さんに着いた私たちは、順番待ちの名前記入欄に名前を書くことになったのだが、

「誰の苗字書いとく?」
「え?なんでそんなので悩むの?素直にって書こうよ。」

ボールペンを持った私は当然ながら自分の苗字を書くつもりだった。ジンには苗字が無いし、沖田って書くのも変な気がした。一応彼は居候の身だし。

「オキタにしましょう」

何でだ、と思ったが、ぐっとそこは堪えた。

「此処に居る全ての歴女がこっち向くよ」
「歴女人口どれだけ多いんですか。たかが知れてますよ」

相変わらず、沖田くんは冷静なツッコミを入れた。

「オクにしよう!オク!」
「え、じゃぁトノにしようよ」

ジンが言った意味を瞬時に理解し、私は違う提案をしたが、沖田くんは訳が分からないようだった。

「殿様〜って呼ばれるよ」
「奥様〜って呼ばれるよ」

ジンと声をハモらせながら言うと、沖田くんは暫く思案して、

「どうせならオレって書きましょうよ」
「よし、それで行こう」



「オレ様〜オレ様〜3名でおこしのオレ様〜お待たせしました〜」

「ぷ…く、ふふ…」
「店員さんも普通に読んじゃう辺りおかしいよね」
「うん。なんの戸惑いもなく言い切ったね」

沖田くんは大爆笑、ジンと私は意外と冷静にツッコミを入れた。
よく考えたら、これ呼ばれて返事するほうが恥ずかしいわ。もう二度としない。



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