神頼み
今日は1月3日。1日と2日は人が多いから、毎年私たちは3日に初詣に来ている。階段を上って、宇治神社の更に奥にある神社。確か世界文化遺産だったはずだ。小さいのに頑張ってるな、というのが私の正直な意見。
去年は沖田くんがこの世界に来たばっかりだったこともあって、来れなかった。一応、神さまってことになってる私たちだが、神頼みをしないわけじゃない。むしろ、普通の人よりも神に祈ることは多いかもしれない。
「僕、神って信じないんですよね」
「まぁまぁ・・・」
興味なさそうに腕を頭の後ろで組む彼の背中を押して、鳥居をくぐる。ジンは鳥居の前で一礼していた。
「信心深いんですね」
沖田くんはその様子を見て感心したような声を上げた。
「ジンは生前巫女だったみたいだしね。」
「生前…?」
不思議そうに、彼は私の顔を伺い見た。
「こういう身体になる前は、皆人間だったんだよ?」
その沖田くんの視線を受け止めて、私は言った。
ジンを見ると、手水舎で清めていた。正式な参拝の手順を踏んで行くのは、例年のことだ。後で合流すれば良い。
「さんも?」
この神社の本殿は少し高いところにあり、石段を登ったところにある。その階段を上って、沖田くんと私は先に並んでお賽銭を放り投げた。
「うん。普通の人間だったよ」
「へ…ぇ」
昔の自分を思い浮かべて、こんな格好良い男の子と並んで参拝できるなんて、あの頃じゃ考えられなかったな、としみじみ思った。あの頃とは顔も身体も違う。昔の事を思い出すのは止めよう。私は静かに眼を閉じて手を打った。目を開けると、沖田くんはまだ隣で手を合わせていた。
参拝を終えて石段を下りると、入れ違いにジンが石段を登っていく。
「あれ?」
「ん?」
沖田くんは、本殿に礼をしているジンを振り返って仰ぎ見た。
「巫女って言ったら、女の人のことだよね…」
「ああ、一応ジンは女の人なんだよ。色々事情があって“お父さん”なんだけどね。私も詳しくは知らないんだけど」
沖田くんは黙ったまま私の方を見る。その表情が私を疑うようなそんな様子だったので、私は息を吐いた。
「私は昔から女ですから」
「へぇ」
にやりと笑う沖田くんの表情はとても楽しそうなものだった。
「なんで疑ってんの…?」
「いやぁ、くしゃみがおっさんくさいんで、もしかして、と思いまして」
ポカリと彼の頭を叩いて、私は神社でこういうことしていいのかな、と思って拝殿に一礼した。私が悪いんじゃない、そんな事を考えている事自体きっと善くないことなんだろうけど。
ジンと合流して、私たちはおみくじを引いた。
「何だった?…っぷ…」
沖田くんの引いたおみくじを見て思わず吹き出した。すると沖田くんはばつの悪い顔をして、唇を突き出して文句を言った。
「何で笑うんですか……」
「君、運無いねぇ」
普通大凶引くか?大吉と同じくらいレアだ。寧ろ運が良いのかもしれない。
「そういうさんは何だったんですか?」
沖田くんは取り乱した自分に恥ずかしくなったのか、こほん、とわざとらしい咳をした。
「ん?中吉」
「普通すぎて、どう反応すればいいかわかりません」
一瞬間があいて、沖田くんは何とも言い難い表情をした。
「普通が一番だよ。異世界に来たりしないような普通の人生がいいよね」
「ほんと、嫌味な人ですね」
真顔で沖田くんはすっぱりと言い切った。
私はにひひと笑った。心の中では、死んだら人外でしたと言う以上に奇怪なこともなかろうと思った。
「うん、これが江戸時代だったら私は沖田くんに刀持って追いかけ回されてる感じだよね」
私はおみくじを財布の中に入れて、沖田くんの頭を撫でた。
「勿論です。これから道場に行きますか?追いかけ回してあげますよ」
「丁重にお断り〜」
彼の頭に乗せたその手をがっちりと握った沖田くんの握力は凄まじいものだった。
「まぁまぁ、おみくじは運勢どうこうじゃなくて、書いてあることに意味があるんだよ」
実際ジンは、おみくじを食い入るように見ている。大吉だろうと、書いてあること全てが良い事とは限らないのだ。
神を信じないと言い切っていた沖田くんも手に持ったおみくじをちらっと見た。そして唐突に「ぜんざいが食べたいです。」と言った。
「仕方ないなぁ、じゃぁ行こう。それで機嫌直してくれますか?お姫様?」
お姫様をエスコートするように片膝をついて手を差し出すと、そっと彼の手が重ねられた。
「考えとくよ」
彼の願いは何と書いてあったのだろう。見ようと思えば見えるのだが。それは少しずるいと思った。
BACK ◎ NEXT