イブニングエメラルド



「っつ…」

一緒に並んでテレビを見ていると、突然沖田くんが目を押さえて呻いた。

「どうしたの?」

右目を押さえた彼の手をどかして、私は彼の目を覗き込んだ。いつもより多くの涙で目が覆われていた。うわ可愛い、じゃなかった。大丈夫かと聞けば、目を瞬かせて言った。

「目がチクチク痛いです…」
「あ〜だめだめ、擦っちゃダメだよ、目に傷がつくから」

弱々しい声でそう言いながら、彼は袖口でごしごしと擦る。

「でも痛い」
「まって、見てあげるから」

再び擦ろうとする沖田くんの手を制して、彼の頭を膝に乗せた。
前髪を払って右目を覗き込むと、緑色の綺麗な目がうるんでキラキラしていた。

「沖田くんの目は、まるでペリドットみたいだね」
「ペリドットってなんですか?」

彼は目を忙しなく動かす。痛いのだろう。

「宝石の名前だよ。緑色なんだけど」

ティッシュで、彼の目から流れた涙を拭いていく。

さんが詳しいのは食べ物の事だけかと思ってました」

それを鬱陶しそうに払って、沖田くんはそう言った。

「沖田くんは目ん玉潰されたいらしい」

指二本を揃えてくいくいと曲げて見せると、冗談ですよと笑った。

「あ〜、うん、ばっちり睫毛入ってるね〜」

涙に乗って、睫毛がゆらゆらと動いていた。涙量多っ若いからかなぁ…。酷使してない綺麗な目なのは確かだろう。テレビなんか見せて目を悪くしたらどうしよう、それが心配だ。

「やっぱりそうですか、チクチクして痛いと思いましたよ」

沖田くんは、目尻に溜まった涙を指で拭った。

「そんな長い睫毛バシバシつけてるからじゃないの?」

整った顔、睫毛も綺麗に並んでいる。しかも長い。

「好きでつけてるわけじゃないですから」
「確かにね」

こんな痛い思いするんなら短い方が良い、と言う沖田くんの目をベロリと舐める。「ひっ」と、短い悲鳴が上がる。

「な!…にするんですか」

右目を押さえて、がばっと起き上がる。沖田くんは変態!と私を罵った。

「ん。」と、舌を出す。

「睫毛、取れたでしょ」

左眼も少し涙目にして、彼は未だ右目を押さえて文句を言う。

「もっとマシな方法なかったんですか…」
「ん、手っ取り早いかな、って思って。ティッシュとか綿棒って怖くない?」

呆れ顔でそう言う沖田くん。舌に付いた睫毛を指で取り、先ほどのティッシュで拭き取った。そのティッシュをくしゃくしゃにして、ごみ箱に向けて放つ。

「いや、そりゃ手っ取り早いと思いますけど…人道的に…」

右目をぱちぱちと開けたり閉じたり、まだ違和感があるらしかった。

「沖田くんに人道的云々かんぬんを説かれるとは思わなかったな…」

人をばっさばっさ(仕事と言えど、)斬りまくっている彼に言われたくはない。よっぽど私の日々の行いの方が人道的だろう。

「まぁ、理由はそれだけじゃないんだけど」

先ほどからわーわー言っているテレビを消して、沖田くんの方に向き直る。

「他に何があるって言うんですか」
「美味しそうだったから」

今度こそ沖田くんは、心底引いたような顔をして後退りした。

「目、がですか?」
「うん」

恐る恐る彼は私に尋ねた。

「まぁ、取れたんだし、気にするな青年!」
「気にしますよ…」

そんなんだから変態とか言われるんですよ!と側にあったクッションが私の顔に投げつけられた。

「お前は生娘か!」

なんか、「朝チュンな状況で女の子がシーツで身体隠しながら投げつける図」みたいな。

「変態!サイテー!」

その辺にあるものを片っ端から投げつけてくる。そんなに私に舐められたのがいやだったのか、傷つくぞ。投げつけられるそれらを神の力全開で避けていく。能力の無駄遣いとか言わないで。だってリモコンとか当たったら明らかに痛いから。それ、ガラス製のコップ!

「言ってることが小学生と変わんないからね!」

因みにその小学生とは、私の足にマキビシを刺した風見 風太のことだが。去年の夏の事だった気がする。散々変態だのショタコンだの罵られた。

さんは美味しそうだったら、何でも食べちゃうんですか?」
「まぁ、食べちゃうかもね」

子供の悪戯に、説教をするお母さんみたいな口調だ。私はその言葉に事も無げに答えた。

「毒でも?」

首を傾げるな、クソ、可愛いな、もう。床に座って、もう一つあったクッションを抱えて首を傾げるその様は可愛い。襲っちゃっていいですか、だめですか、そうですか、すみません。

「毒の類は、経験として蓄積されまーす。毒云々は私たちには効きませーん」
「うわ、その喋り方凄くバカっぽい」

馬鹿にしたような目で私を見てくる。というか、実際馬鹿にしてる。

「うわ、ひっど」

その言い草はないよね、一応ヒロインなんだけどなー。私って扱い酷いよね、変態とか最低とか言われすぎだよね。あとさ、なんか皆私のことよく侮蔑的な目で見るんだけど酷すぎだよね。

「毒、飲んでも死なないんですか?」
「死ぬ云々のプログラムは私の中にはありません」

ブイ、と手を前に出す。それを沖田くんは興味なさそうに一瞥した。聞いといてそれか!

「驚いた?」

座っている沖田くんの傍まで、私は座ったまま身体をすって進む。前まで来たところで、すとんと居住まいを正した。

「今更何聞いても驚きませんよ。受け止めるだけです」

よしよしと、頭を撫でられる。これ、犬猫にする感じの撫で撫でなんだけど。

「…沖田くんって格好いいよね」
「何ですか、突然」

少し照れたような仕草で、なおも撫でる手は止まらない。

「ううん、他意は無い。ホント男前だよね。沖田くん」

感心したように言う私に、にやりと笑って「惚れた?」と聞いてくる。掠れたような声が妙に色っぽくて、にひと笑って見せた。

「会った時からベタ惚れだよ〜」

手をひらひらと振りながら言うと、彼は苦笑した。

「うわ、嘘っぽい…」
「え、ひっど」







「あ、そうだ、さっき言ってたペリドットってこれのことだよ」

私の部屋に置いてあるお宝の山、これは私が海賊の世界に行っていた時のものだ。

「へぇ、って、何で持ってるんですか…というか、そのお宝の山は何ですか?」
「うん?お宝だけど」

当然の質問だったが敢えて私はそう切り替えした。

「いや、僕が聞いてるのは、なんであるんですか?ってことなんだけど」
「そういえば、ペリドットって別名イブニングエメラルドって言ってね、夜暗くなっても色が暗くならないらしいよ」

彼が言い終える前に私は喋りだした。

「今、あからさまに話反らし…」

この時間なら、もう直ぐジンが帰ってくるはずだ。そうすればこの話題は打ち切られるはず。

「女神ペレの涙と言われてね〜、豚の神様と結婚することになったペレが悔しさの余り流した涙なんだって。まぁ、諸説はあるらしいけど」

別に教えてもいいけど、自分ルール発動、今日は絶対に本当の事を教えない。

「あの、」
「豚とか、勘弁だよね。まぁ、なんていうか、人間の姿に化けてる時は凄く格好良かったらしいけど」
さん、」
「そうそう、ペリドットは8月の誕生石なんだよ。沖田くんは誕生日何月何日?」
「…えっと、…?ん、ああ、6月1日ですけど…」
「旧暦6月1日…新暦の7月15日だから、ルビーだね。ルビーっていうのは」
「ただいまー」

っしゃー!ジンが帰ってきた。

「あ、おかえり」

会話打ち切り、作戦成功。ミッションコンプリート!

「結局はぐらかされた・・・」

隠す理由は特に無い!





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