きっと彼に私は必要ないのだろう、はそう思った。目立つ体躯をしている彼女、いや彼を見逃すはずがないのだ。
「大輝君…」
タイトル
4月、
桜が舞っている。は見上げた。後輩が入ってくる。彼は高校二年生になっていた。
は人ではない。生物ではない。正しくは生物であり人であるが、人でも生物でもなかった。人という垣根を越え、は存在していた。
元々は平凡な女だったのだが、紆余曲折があった。一から説明できるようなことではない。
気が付いたら彼の一度目の普通の人生は終わっていた。死んでいた。死んで、謎の白い少年に、「手違いで殺しちゃった。テヘ。100%僕の過失だけど、かわいいから許してねv」と言われ、
「一応悪いとは思っているんだ。お詫びといっちゃ何だけど、君に僕の知識と力をあげよう。ただ、この知識は人間の身体じゃ収納しきれない。だから、」
そんなこんなで呆気なく彼は人外になった。さらに詳しく言うなら、不老不死になった。そして様々な世界を転々としながら生きている。いわゆる転生トリップ夢のありとあらゆるを詰め込んだような展開だ。
なにやら凄い存在になったのだが、如何せん元がただの一般人なので、一般人としてしか生きられない。そんな残念な存在なのである。
「今年、はどんな人が入ってくるんだろう…」
はぽつりと呟いた。
春うららか、今日は入学式。また一年が始まる。
「隊長!何人入りますかね!楽しみだねぇ初後輩!」
「えー…あんまり入ってきて欲しくないなぁ…2、3人が良い」
「えー、可愛い子いたら、コスプレとかできるじゃん!某アイドルのコスプレで踊るんだぁ」
一人じゃ寂しいしさ、イベント行く勇気無い!と常に言っている彼女である。
「……そういう問題なのか…」
同級生である彼女、加藤直はのことを「隊長」と呼ぶ。部員どころか、部長までもがを「隊長」と呼んだ。
「君、威厳があるので私は「隊長」と呼ぶことにしたぞ!」
と後に部長になる後藤 早苗が宣言してから、つまりが誠凛に入って一ヶ月ほどで定着した。
(実際三百年くらい生きてるわけだけど…)
大学の入学式みたいに、その日から部の勧誘が始まっていた。体育館で部活紹介があるだけの高校が多い中、誠凛では盛大な勧誘ロードができていた。
「まぁ、確かにそうよね、理解ある子じゃないと…」
「部長、お疲れさまです」
部長が勧誘ブースにやってきた。先ほどの二人の会話を聞いていたらしい。
は簡単に挨拶した。
「隊長、堅苦しいぞー」
「あはは…」
は女だ。女だが、今は男の格好で椅子に座って勧誘をしていた。格好と言うよりは、男だった。下は付いている。上は付いていない。何がとは言わないが。には変身能力があった。
(勧誘ポスター見て、大抵の子は引いちゃいそうだ…とか言っちゃダメなん だろうな…)
ちらりとは自分の横に貼ってあるポスターを見上げた。完全にオタク系のポスターだ。
「美術部に入りませんかぁー」
はスポーツが苦手だ。苦手と言うよりは人外になった時点で何でもできる能力、絶対行使力
経験したものは何でも実行できる力、を手に入れたことが原因だった。はなんでもできた。
だがは努力を伴わない成功に違和感を感じていた。無論人外になってすぐは何でもできることに感動し、色々やっていたのだ。それも百年単位で生きていると、新鮮みもなくなり、むしろ敬遠する力になってしまっていた。
自分の能力だと割り切れないまま、は自分の力を使うことを極力避けてきた。
見るのは好きなので、マネージャーも考えた。しかしの身長を見て、運動部は皆「選手でもやってけるって!」と口を揃えて言うので、早々に運動部を諦めた。
そして今に至る。
スポーツは戦いだ。だがはそういう戦いを望んでこの世界に来たわけではなかった。
誠凛高校の美術部は外部との交流のない部だった。は気楽な気持ちで在籍できた。
だからは中学時代につるんだ「彼ら」と一切の交流を絶ち、この誠凛高校美術部にいた。
(私は、人間だった頃はパンピーだったんだよ!)
一般ピープル、全くの平凡だった女が突然力を手に入れるとこうなる。そうは思っていた。
には、力の使い道が分からなかった。
、現在高校二年生、実年齢三百歳くらい。
突然人外にされ、異世界を転々としつつ、様々な戦いに巻き込まれ、現在、人だったときのような平凡な生活を取り戻したくて、
この世界に来た!
と、新アニメのCMのようなことを脳内で再生した。
が部長と談笑しているとき、水色の髪をした少年が器用に人混みを抜けていった。
「隊長、」
「ん?」
「のどかですねぇ」
直はそう言って、桜の木を見上げた。は突然の直の言葉に曖昧に返事をしつつ、首をかしげた。
「うん、まぁ…えっと、どういう流れでそんな感じになったのかな…」
「え?」
「いや、直ちゃんはそうだよね、そういう子だった」
@自称・自称神@
絶対行使力―――経験したこと、知識としてあることは必ず実行できる力、を有しているがために、人智を越えた力を使うことができる存在。
不老不死で、不死身。
なので、人からした神のような存在ということで、自称神という認識が本人達にはあるが、主人公はそれをさらに自称をつけて呼んでいる。
精神的死後は、肉体が「世界」(宇宙)になる。
肉体と言っても、ケイケン(記憶)の集合体。
ケイケン、すなわち含有する「可能性」。
世界がどう発展していくかは、経験がどれ程多く、どれ程幅広いかで決まる。
とかいう厨二設定
**
「隊長、今度このポーズしてくれ、デッサンしたい!」
美術部兼クラスメイト山川将義が、戦闘を伴う漫画を取り出してあるコマを指さした。は目をひん剥いた。
「無茶ブリ!……足がプルプルしちゃうけど、いい!?」
「ああ、もちろんだぜ!」
「断ってよ!」
ぐっとたてられた友人の親指をは思わずぐきっと言わせた。
「ってー!」
「いや、無理だから、腰とかぐきってやっちゃうから!これは二次元なの!俺、三次元!」
「なんで、お前は三次元なんだ…」
あからさまにクラスメイトは落ち込んだ。
「俺、今どう反応すれば良かったんだ…」
とクラスメートが話している時、バスケ部の監督である相田リコが悲鳴を上げた。
「アンバ(アンタ)ビズノバビ(いつのまに)!?」
「本入部届けください」
はその声がした方を見た。淡い水色の髪、何を考えているのか分からないビー玉みたいな青い目。には世界が華やいだように感じた。一筋の風が吹いた気がした。
(…テツヤくん…バスケ部に入ったんだ…)
影の薄いと評判の黒子テツヤ。バスケ部ではなかったが、も帝光中学の出身で交流もあったので二人は知り合いだった。話しかけるか無視をするかは考えた。
バスケ部のメンバーとは連絡を絶っている。
(仲は…良かったけど…)
「ー、なんか部長って言う人呼んでるー」
「あ、はい…行きます」
は黒子の方へ一歩踏み出そうとした足を引っ込め、黒子の来た方とは逆側のドアへ向かった。
黒子はその聞き覚えのある名前に返事をした男を探した。だがその目立つ容姿を持つはずの男はいなかった。
「あ…」
「どうしたの?黒子くん」
リコが尋ねた。黒子は声のした方を見つめていた。白昼夢を見たような感覚に襲われ、黒子はぼんやりとした思考で答えた。
「いえ、………気のせい、だったみたいです…」
「ふぅん」
黒子は普段から表情があまり動かない。だからリコもそれ以上気にかけなかった。
は何度も黒子のミスディレクションを見ていた。だからにもミスディレクションは使えたのだ。
(何を話せばいいのか分からないしなぁ…)
「お待たせしました、部長」
「良いのよ、それよりさ、これ!」
は表情を変えずに、部長の持つ漫画を凝視した。
「あの…」
「昨日出た新刊なんだけどさぁ!これ、この格好やって欲しいわけ!筋肉がどうなってんのか知りたいのよ!」
先ほどクラスメイトが見せたコマと同じだった。
「なんか、デジャブ…」
は遠い目をした。
「じゃあ、また放課後!」
「はい、お疲れ様です」
嵐のような部長が去り、は教室に戻った。教室に戻ると既に黒子の姿はなかった。
「……そっか、もう一年経ったんだなぁ…」
「どうかした?隊長、」
「ううん、何でもないよ」
首をかしげて、山川はを覗き込んだ。はふわりと微笑んで、答えた。
「隊長って、…」
「ん?」
「普通にしてたら、すっげーイケメンだよね。俺惚れちゃいそう」
「やめとけ、やめとけ、いいことなんて無いぞ、俺と一緒にいても」
手を振って、は自分の席に戻った。
は勉強もそこそこ、性格もそこそこ、顔とか体とかは突っ込んで欲しくない、そんな普通の何処にでもいる人間だった。
普通の心、最強の体。心と体はちぐはぐだった。
「普通が一番」前は言い聞かせるように反復したその言葉が、現実味を帯びての中で存在感を増してきた。
とはいえ、もう三百年だ。は普通に戻れないのなら、手に入れた力を使って、普通に人間として存在していたなら会えなかったであろう人々に会いたいと考えていた。
(……イケメンに会いたい…そして、なんか色々したい…)
ちょっと離れたところから見守るのが一番良い距離。それが良い。何にも巻き込まれたくなかった。それが無理なことだったと気付くのは、そう遠くない。
**
「ん?可愛い女子がいっぱい集まってるね」
「ほんとだー」
が体育館を見てそう言った。直がの視線の先を見て、相づちを打った。
「おお、今……」
クラスメイトの山川がに気づいた。が駆け寄ると、山川は現状を説明しようとした。しかし途中で隣にいた同じくクラスメイトの宮野に振った。
「モデルの黄瀬涼太が来てるらしくって。あれで一個下なんだよなぁ」
「ああ……」
宮野が黄瀬の来訪を告げた。は曖昧に返事をした。
「見学してく?」
「うーん……」
直の提案には唸った。
「珍しい、隊長イケメン好きなのに」
「好きだけど…」
直の率直な疑問には言葉を濁した。黄瀬は中学時代になついていた。だから、今ここでの姿を見たら、犬のようにしっぽを振ってくるに違いない。別に黄瀬が嫌いになったから連絡を絶ったわけではないのだ。しかし余りにも気まずい。
「隊長?」
「イケメンは好きだよ。あわよくば、ちょっとベーコンレタスにもつれ込んだら美味しいと思ってるけど…」
「いやんvそれは、是非、」
「直…」
腐女子の直はの言葉にしなを切った。それにが呆れ顔で応えた。
クラスメイトの二人は聞き流している。がバイだということは周知の事実だ。基本的には女子が好きだと言うことを知っているからこそ、皆は普通に接している。
は元々女なので、男を好きになること自体は全くおかしいことではなかった。ただ今は男として生きている。
「……やっぱ、やめとこうかな…」
「そうなのか?滅多に無い機会なのに…」
「うん……」
山川と宮野は一目見ようと列に並んでいたが、はそれを断った。そして、その場を後にした。
「……美人になったなぁ…涼太君…」
「あり?隊長知り合い?」
「うぉ!びっくりした…」
直は意外とミーハーなので、列に並んだと思っていた。しかし、しっかりとの後を付いてきていた。
「…好みの子が居なかった…」
「そ、そっか…」
直は普通に男が好きだ。そして、それとは違う意味で女の子が大好きだ。黄瀬にサインをもらう列に並んでいた中には好みが居なかったらしい。
「で、知り合い?」
「まぁね…一年間だけど…」
「バスケ部?」
直は黄瀬がバスケをしていることを知っていた。普通の女の子の一面も持つ直は雑誌で黄瀬のことを承知しているようだ。
「ううん、助っ人…じゃないな、マネージャーとも違うし…うん、マッサージ師、かな」
「何その美味しい設定…」
「じゅるり」、と口で言って、直は目を輝かせた。中学時代、はキセキの世代に触り放題だった。確かに美味しいポジションかもしれない。やっている最中はそれなりに真剣なので、あまりそういった感覚はないのだが。
は手をわきわきし、感触を思い出していた。やはりイケメンに触れられるというのは大層役得だ。
「隊長!手がエロいであります!」
と敬礼して、直は元気よく言い放った。
「通常運転ですけどね」
「そうでした」
**
「黒子っち、どうしたんスか?」
「え……いえ…」
黒子は人混みの中に見知った顔をみたような気がしたが、もう一度よく見ると知らぬ顔ばかりだった。
そういえば、この前もこんなことがあったな。と不思議に思った。求めているから幻を見るのかと黒子は心中複雑だった。
「…黒子っちも、さんがどこに行ったのか、知らないんスよね?」
「…………ええ…知りません」
黒子の心を読んだかのように、黄瀬はの名を出した。黒子は表情に出さずに、ぎくりとした。
「そうっスよね…黒子っちなら、とか思ったんスけど…じゃあ、俺帰るっス」
「はい、それでは、また」
黄瀬は帰っていった。帰りも女子に囲まれ、笑顔を振りまきながら歩きにくそうにしていた。
(ボクだって、知りたい…あの人はどこへ行ったのか…)
黒子はそんな事を思いながら黄瀬の背中を見ていた。その黒子に日向が声をかけた。
「って言ったか?」
「え?ああ、はい」
ぼんやりとしていた黒子は、突然の声に少し反応が遅れた。
「もしかして…上の名前「」って言うんじゃないか?」
「……そう、ですけど…知ってるんですか!?」
珍しい黒子の食いつきに、日向は一瞬ひるんだ。横からリコが現れ、口を開いた。
「というか、クラスメイトよ」
リコの言葉を聞いて、黒子は荒くなった息を整えた。それを見計らったように、リコは黒子に尋ねた。
「……で、どういう関係?」
「……キセキの世代の、専属マッサージ師です」
思わぬ接点に体育館がざわついた。
「え、マッサージ?」
「ええ、そうです」
黒子が冗談を言うはずがない。それに本人は先ほど黄瀬に冗談は嫌いだと言っていた。
「素人がマッサージしたら、余計悪くなることがあるわ」
「資格、持ってるって聞きましたけど…実際身体軽くなりましたし…」
「資格ぅ!?中学生…よね…?あれって、大学入学資格が無いと取れないはずよ」
リコが驚きの声を上げた。
マッサージ師の資格は国家資格だ。リコの言うように大学入学資格が無い者には、資格どころか専門学校にも行けない。
「………でも、もし本当に資格持ってて、本当のマッサージ師だったら、是非とも、うちの部に入って欲しいわね」
リコが真剣な顔で言った。
「マッサージなんて、大切なのか?」
「当たり前よ!筋肉は疲労すると硬くなるの。怪我をするリスクも上がるわ。スポーツマッサージをすれば、良いコンディションを保てるし、怪我も減る」
「へぇ…」
火神はリコの熱弁に引いた。
「これは、本人に聞くしかないわね!早速行きましょう!」
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