梅雨も終わり、強烈な暑さに人々が喘ぐ夏が来た。そろそろ夏休みが始まる。夏休みが始まるのと同時期、中学バスケの予選が行われる。そしてインターハイがそろそろ始まる、そんな時期だ。一年生である森山は、自分にはあまり関係ないと言っていた。だが試合に出なくとも練習は等しくある。森山も汗だくになって練習に励んでいた。
そんな中、は、涼しい部屋でのんびりと休日を過ごしていた。ソファに寝転がり、は手を天井に伸ばした。手をじっと見つめる。森山に触れるたびに、罪悪感を感じる。はいつも思うのだ。猶予期間が欲しいのは、自分の方ではないのかと。
二人の森山由孝の間で、は揺れていた。確かには森山が大切だった。だが自信を持って言えない。嘘は吐きたくなかった。はそんなもやもやとした気持ちを持ちながら、森山に接した。森山も時折不安げな顔をしている。いつか壊れる、そんな予感すらあった。が、どうすることもできない。

「はぁ…」
「溜息は幸せを逃がすよ?」
「どわぁっ!!」

ソファから転がり落ちた。は一人暮らしだ。誰もいるはずがない。しかししっかりと幻聴で無い声がして、それも他人でないことが分かっていた。

「ジン…」
「久しぶりだね。そして相変わらずちゃんは、悩みに悩んでるねー」

にっこりとジンと呼ばれた少年は、笑みを見せた。ジンはを人外にした張本人だった。
「手違いで殺しちゃった。テヘ。100%僕の過失だけど、かわいいから許してねv」と言われ、
「一応悪いとは思っているんだ。お詫びといっちゃ何だけど、君に僕の知識と力をあげよう。ただ、この知識は人間の身体じゃ収納しきれない。」
とか何とか言って、ジンはを殺し、を転生させた。つまりはの親だ。

「ぐちぐち悩むところは女の子だよねぇ」
「はいはい、そうですよ。仰る通りです」

は否定せず、ジンの言い分を受け入れた。

「君って、本当につまらないことで悩むよね」

苦笑いして、ジンはを見た。はジンに言い返す。

「つまらなくないよ」
「つまらないよ。僕からしたらね」

の髪をさら、と撫でた。

「じゃあ、どうすれば良いんだよ」

ふて腐れたように言うと、ジンは笑った。

「行動あるのみだと思うけどね」



**



      私はどっちの森山由孝を愛しているのだろう

は、その答えが欲しくて、ある人物に会いに行った。会いに行ったというよりは見に行った。ジンが、に告げたことだ。

行動、

「森山くんに何度会ったって、分からないだろう?それならさ、他の人に会ってみたらどうだろう。例えば、君の『元』恋人、とかさ、」

「元」を妙に強調し、ジンはそう言った。ジンの言うことを鵜呑みにするつもりはなかったが、それでもの倍は生きている年長者の意見だ。それなりに説得力がある。そうして今日この日、はここに来た。
帝光中学校の試合、青峰大輝が出ているはずである。必ずしも同じ運命を進むわけではないのだが。その日の試合を見るのは二度目だ。あの日、青峰は試合に出て、そして勝った。
は息を吸った。緊張している。そわそわとどこか落ち着かない。

「出てきたぞ…!」

そんな声がして、はコートを見た。

褐色の肌、青みがかった髪、好戦的な瞳、全てがあのころのままだった。

「あ…」

やはりキラキラと輝いていた。誰よりもバスケが好きなのだと全身で叫んでいる。はじんわりと心が温かくなるのを感じた。やっぱり好きかも知れない。
青峰が、ふと上を見上げた。はふっと笑顔になった。期待に膨らませ、は乗り出した。

(あ…)

お峰くん、声が出なかった。青峰の視線が通り過ぎた。 は呆然と立ち尽くした。知っていたはずだ。同じ顔をしていても、彼はの愛した青峰大輝ではない。
分かっていたはずが、思ったよりも衝撃をうけた。そのことには酷く動揺した。
青峰とは、一度だって会ったことがないのだ。ただの他人だ。知っているようなフリをして、全く何も知らない、そんな他人だ。別物だ。たとえの中に「好き」の断片が残っていようとも、その想いは叶わない。急激に熱情が冷めていく。冷めたのではない。ありもしなかった感情をただ、あたかも今感じているもののように再現しただけだ。かつての彼に、今の彼を重ねて、好きでいるような気になっただけだ。
は気付いた。自分の考えていたことが、あまりに愚問なことに。

(そうか、私、森山「くん」が好きなんだ…)



**


「答えは出たの?」
「…………………出たよ。いとも簡単にね」

は複雑な心境を抱えつつ、にやりと笑った。

「それは良かった」

ジンはにっこりと笑った。

「いつまで経っても、子供は子供だよ」
「知ってる…ジンが、死なない限り、私はジンを越えることなんかできないよ」

ジンはそのことに対しては無言だった。無言で微笑んでいた。

「僕もこの世界に住もうかな…」
「え!?」
「あれ?だめ?」

ジンがに困ったような笑みを見せると、はぶんぶんと首を振った。

「駄目じゃないよ!全然!一緒に住む?どうする?もっと静かなところが良いかなぁ、山があった方が良い?私は海より山派かなぁ。どちらも見る分には、ということだけれども!森山くんとも会う!?会うでしょ、会うよね?」

はペラペラと捲し立てるように言った。ジンは呆気に取られたが、すぐに笑みに戻った。

「そうだねぇ…僕も山は好きかな。空気が澄んでる方が良いなぁ」
「そっか」
「それに、森山くんにも会いたいな」
「うん、良い子だよ」

にこにことはジンに森山のことを自慢した。

ちゃんは、そういう素を見せるべきだと思うよ」
「ん?」
「気取り過ぎっていうか…年長者だから頑張らないと!って思うでしょ」
「そう、かな…」
「彼は、頼られるのが好きなタイプに見えるけどね」

それはそうかもしれない、はそう思った。

(自分を押さえるのはもうやめよう……ちゃんと、好きって伝えよう…)



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