(また、この夢…)
森山は目を開いて、そう思った。目を開いたのは夢の中の森山だ。驚くほど違和感がない体。ほんの少し視線が高い、それだけだった。
「森山、どうかしたか?」
「え?何でもない…」
森山は咄嗟に答えた。
「そうっスか?顔色悪いっスよ?」
(この前会った男の子、金髪の青年、目がくりくりで喧しい男、それを窘める優男、)
「大丈夫だって、心配しすぎ」
酷くリアルな夢、夢の中でも森山由孝として生きている。寝ても覚めても森山は生活していた。
(海常、高校…?)
男達が着るユニフォームにそう書かれていた。
「笠松さん、と皆さん頑張ってくださいね!」
「俺らはオマケか!」
森山の知るよりも幾分か若く見えるが、にっこりと笑っていた。
(そうだ、ウィンターカップ、絶対勝たないと、いけないんだ)
勝たないと、今度こそ
**
「なんで勝たないと、って思ったんだろう…」
森山は今朝見た夢を反復して、首を傾げた。
(それに、あれって、あいつ、だよな…?なんか若かったけど…相変わらず胡散臭そうな面してた…)
「何が?」
「っ…………!!!!!」
急ににゅっと後ろから現れたに、森山はのけぞった。かくんと膝の力が抜けて、森山の体が地面に崩れ落ちそうになる。森山は咄嗟に目の前の白衣を掴んだ。は森山の体を難なく支えた。
「大丈夫?ごめんね」
は申し訳なさそうに森山に謝罪した。席を外していたは、戻ってきた保健室で森山が立ちつくしているので、声を掛けたのだ。予想外に驚かれて、も幾分か驚いた。
「だ、いじょうぶ…急で驚いただけ…」
夢の中のと、目の前にいるが被って見えた。それを振り払うように森山は一度ゆっくと目を閉じ、そして開いた。
「ベッド、借りる、から…」
「どうぞー。10分経ったら起こすからね」
「ああ、頼む」
夜に眠れなくならないために、保健室での睡眠は10分ということにしたのだ。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
そう呟いて、森山はベッドに入った。
(あいつの腕、力強かった…な……………)
森山はぽつりと思った。かっと目を見開き、身体を丸めてシーツを握り締めた。何を考えているのだ、と自問自答する。森山は心臓がどきどきと高鳴るのを感じた。それと同時に段々意識が覚醒していく。
は、おやと思った。普段ならベッドに入ってすぐに寝入ってしまうのに、今日は寝付きが悪いようだ。は様子を見に行こうと立ち上がった。
「しっつれいしまーす」
保健室の扉が開いた。森山一人に構っていられる立場ではない。
「はいはい、どうぞ」
ぱたぱたとスリッパの音を立てて、少女に駆け寄り、は快く迎え入れた。
「今日はどういったご用件で?」
「今日は、なんと告白OK貰いましたーって報告!」
少女は元気よくピースをした。
「良かったじゃんか!」
も自分のことのように喜ぶ。以前から相談を受けていた話だ。養護教諭は、体の健康だけでなく、心の健康も守らなければならない。これもの仕事の一つだろう。
「そうなのぉ!ちゃんのおかげだよ!告白して良かったー」
頬を上気させ、とびっきりの笑顔で少女は笑う。もそれにつられて笑った。青春だなぁと、ほっこりと心が温かくなる。
「あ、じゃあもう行くね!今日は報告だけ!」
「うん、またね」
少女は来たときと同様、騒がしく去っていった。乱暴に閉められたドアは、跳ねかえって少しだけ開いていた。それを締めて、その足でベッドが並ぶスペースへと向かう。
「眠れてないみたいだけど?」
そう言うと、森山がむっくりと体を起こした。
「あんたって、女子生徒に人気あるよな…」
森山はの質問には応えず、話題を振った。
「そうかもね」
何でもないように言うので、森山は悔しそうな声を出した。
「くっそ、羨ましい…なんでこんな男に…」
「えー、そんなこと言って、森山君だってほぼ毎日来るじゃんか。男の子にも人気あるよ!」
は拳を握りしめて力強く言った。それを見て森山はげんなりした顔をした。
「………それはっ……そうだけど…俺はアンタに会いに来てるんじゃなくて、ベッドにお世話になりに来てるだけだって」
「素直じゃないなぁ。ツンデレ?」
「違う!」
からからと笑うとは裏腹に、森山は複雑な心境だった。
「てか、男に好かれて嬉しいわけ?」
言ってから、わざわざ聞くことでもなかったと後悔した。森山は自分の心臓が激しく波打つのを感じた。手に汗がにじむ。変に思われたかもしれない。
「………いや、だって、男の子も生徒だよ?」
森山は、自分はなんて愚かな質問をしたのだろうと思った。高鳴った心臓が急激に静かになり、血液がざっと下がるのを感じた。にとってはただの生徒の中の一人なのだ。当たり前のことだ。何を期待していたのだろうと恥ずかしくなった。
**
相変わらず、森山は不思議な夢を見ていた。こうもよく見ると、すぐに自分の状況を理解できるようになった。また誰かの視点で見ているのだ。
見知らぬ男、やけに黒くて人相の悪いそいつ、その男の隣、
「?」
だめだ…
そこで森山の意識は急激に浮上した。ぎす、と頭に痛みが走る。覚醒はしたものの体はまだ起きる気がないのか、酷く重い。
狙い澄ましたように、携帯のアラームが鳴る。森山は無理矢理体を起こした。ただでさえ最近眠気のせいで授業態度は決して良くない。内申に響く時期ではないが、遅刻は憚られた。
立ち上がり、カーテンを開ける。日光を浴びれば、幾分か覚醒が進む。
のノートに書いてあったのだ。森山は溜息を吐いた。
(なんで、だめだって、思ったんだろ…)
森山はそう思った。そういえば、自分は「」と呼ばなかったか、森山はそれが夢の中だったのか、起きてからの出来事だったのか分からなかった。のことを「」などと呼んだことはない。それどころか一度だって名を呼んだことはないのだ。
ぎりぎりと締め付けられるような痛みを感じ、森山はぎゅっと胸を押さえた。
BACK ◎ NEXT