桜を見に
沖田くんはじぃ、と私を見ていた。
「えっと…あの…」
その視線が痛くて、私はたじろいだ。何かおかしいかな…。おかしい?服がダメ?そりゃあ、江戸時代の人からしたら私の服装はハチャメチャで可笑しいかもしれないけど。露出は抑えているし、色も黒基調で失敗するような色合いではない、筈。
えっと、上から、黒いシャツワンピでしょ、黒のジーンズ、何の変哲も無いパンプ、ス…?
「あ、ヒールだめ?」
今履いているパンプスのヒールは8cm。私の身長は余裕で180cmオーバー。
「別に何も言ってません」
「目が言ってるんだけど…」
面白くない、そう目が訴えている。
「なんで踵が高いの履くんですか?」
「そりゃ、足が長く綺麗に見えるよ」
愚問だった。足がスラっと見える。
「別にいいでしょ?さんは元々足も長いし綺麗なんだから」
「へ?」
そう言って彼はそっぽを向いてしまった。表情は窺い知れないが、耳が少し赤い。私もつられて顔が熱くなるのを感じた。
「あ…ありがと、う?」
「別に、誉めてるわけじゃないし」
素っ気無い返事だったが、純粋に嬉しかった。
『ジン、有難う。私を美人にしてくれて。』と心の中で感謝した。すると、隣に立っていたジンが私を見てにこっと笑った。彼には全部お見通しかなぁ。と、両手で真っ赤になった頬を挟んだ。
まだ人間だった頃は、こんなイケメンに美人なんて言ってもらえるような容姿でなかった。美人ってお得だ…。
「平たいの、履いてくよ」
そう言うと、沖田くんは無言で玄関を出て行った。気まずかったのだろう。
***
比較的広い道路を、3人並んで下っていく。真中はジン、左に私、右は沖田くんだ。手を繋いで仲の良い家族、には見えないかもしれないが、仲の良い兄弟には見えているかもしれない。
「塔の島ってなんで塔の島って言うんですか?」
沖田くんが唐突にそう聞いてきた。
しばらく考えてみたが、答えがでそうなかったので、ジンに任せることにする。
「ん〜、ジン、バトンタッチ」
自分の右側にいるジンに目配せをする。
「なんか浮島十三重の石塔っていうのがあるからだよ。
一般的には中の島って言うらしいけど。地元では、皆塔の島って言うよ」
「へぇ。なんでさんは知らないんですか?」
聞いておいて、結構返事が適当だったんだが…。「興味ないから」と、とりあえず答えておいた。
「ちゃんの詳しいのは何処の茶屋が美味しいかだよね」
「はいはい、そうですよ〜」
ジンは手を大きく振って歩く。繋いだ私のてもその手に引かれて大きく前に後ろに振られる。
「あはは、さん、それ何て言うか知ってます?」
沖田くんは、おかしそうにけらけらと笑う。
『花より団子、』
沖田くんと声が重なる。
「って言いたいんでしょ」
「正解です」
クスクス笑う沖田くんは美人さんだなぁ、とそんな事を思った。顔がすっごく整っている。睫が長く、時折色っぽさを感じる。やはりどこか現代の日本人とは違う雰囲気を持っている。ほんの少し寂しさを覚えた。
「今日、…晴れて良かったね」
「…そうですね」
私が何か思ったのを感じ取ったのかもしれない。沖田くんは少し考えるような仕草をした。それでも何も言わずに、頷いた。
実際今日は春の日差しが暖かくて、風も穏やかで心地良い。花見日和だ。こんな日に暗い気分になっているのは勿体無い。
「私的には、ここが名所なんだよね。」
川沿いに桜の木が並んでいる。その木が、まるで花のトンネルみたいに細い道を覆っている。隣で息を呑むのが聞こえる。
「今年の桜祭りはドンピシャだったね」
「だね〜」
満開とぴったりの桜祭り。遅すぎて桜が散っているのが常なのだが、今年は時期が良かったらしい。
天気予報では散々今年は早い、と言っていたのに。結局、例年より少し遅い開花となった。
桜のトンネルを抜けて、しばらく歩くと、塔の島に到着する。
「出店もあるんですね」
「そうだよ〜」
一通り見て周り、来た方と逆の橋を渡る。
遊歩道を歩いていく。今日は宇治川の流れも穏やかで、水面が太陽の光できらきらとしていた。
「それ、平等院だよ」
「これが…」
ジンが指を差し、沖田君がその指の先を見る。木々が生い茂っていて、中をここからしっかりと見ることは出来ない。隙間から辛うじて何かがあるのが見える程度だ。
「うん。総ちゃんが歴史建造物に興味があるとは知らなかった。ねぇ、ちゃん」
「いや、あんまり」
沖田くんはジンの言葉に即答した。あまりの速さに、私はすぐさま反応できなかった。
「まぁ、そうだよね。歴史建造物に囲まれて生きてたんだもんね」
「気にする暇が無かっただけですよ」
そのせいで、興味も湧かなかったのだろう、ということらしい。
私はあまり興味が無かったので、二人の少し後ろを歩いていた。
先ほどから口数の少ない私を気にしてか、沖田くんが後ろを振り返った。何かを言おうとしているらしいのでじっと沖田くんの目を見て待っていたのだが、なかなか喋り始めない。
「どうかした?」
「いえ、なんか、口数、少ないから」
痺れを切らして私の方から話し掛けた。すると、彼は気まずそうに視線を反らした。
「何言ってもダメだよ。ちゃんはもう食べ物の事で頭が一杯なんだ」
「ジーン、」
ジンの言葉に対して、私は少しの怒りを込めて名前を呼んだ。
「わぁ、ちゃんが怒ったー」
ジンは棒読みでそう言って、沖田くんの周りを私の視線を避けるようにくるくると回り、そして腰にしがみついた。
くそぉ、羨ましい!
「あっはっは…さんって結構子供っぽいですよね」
「うん、まだ若いよ〜ピチピチだよ〜」
ワンピースの裾を持って、ぴらぴらさせながらそう言うと、沖田くんは可笑しそうに笑った。
「そういうところはオバサンくさいけど」
「えぇぇ…酷い…沖田くんは甘味無しね!」
沖田くんの前に走り出て、くるりとターン。後ろ歩きをしながら人差し指を立てて、びしっと言い放つ。
「そういうところ子供っぽいって言ってるのに」
再びくるりとターンをして、歩き出す。苦笑する沖田くんの視線を背に私は軽やかに歩く。
「私はいつも初々しい心を忘れないんですぅー」
「さんのは、幼い感じというよりもバカっぽいですよね」
上体だけをまわして沖田君の顔を見ると、沖田くんはへら、と笑った。
「うわ、傷ついた!甘いもので癒されたい!」
「最初からそのことしか考えてなかったでしょうに…」
***
「ね!おいしいでしょー!ここのサクラアイス!春限定なんだよ!」
ベンチに腰掛けて、サクラアイスをぺろりと舐める。
「そうですね、さんが楽しみにしてるのも分かります」
結局3人でアイスを仲良く食べているわけだが。ジンは無言でぱくぱくと口に入れていく。
「あ、沖田くん、あそこ見て」
「どこですか?」
彼はきょろきょろと周りを見渡す。
「電話ボックス…箱の上」
立ち上がって指を差すと、沖田くんも立ち上がった。
「なんかくっついてる…」
「鳳凰だよ。」
「ミニ平等院だね〜」
暫く見ていた沖田くんは、ベンチに腰を下ろして、一言。
「……………………………………びみょー」
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