はじめまして!




「ごめんね、ジンに荷物持って貰って」
「うぅん、全然大丈夫だよ〜」

レジを済ませ、かなり大荷物。何せ今日からは3人分の食材が必要なのだ。まだ目覚めぬ早朝ジンが拾ってきた青年が家に居候することになればの話だが。それでも拾った責任があるので、一食くらいは食べていって貰わないと寝覚めが悪い。
その三人分の大荷物のほとんどをジンに持ってもらって、家に帰るべく坂を登っている。端から見れば虐待とも取られかねない光景である。

ジンの姿はどこから見ても子供の出で立ちだ。私はというと、人間の頃の顔立ちとはおさらばして、身長170cmオーバー、長い髪、ぼんきゅっぼんの魅惑のボディ、という少々欲張りなものだ。だが第二の人生。見逃して欲しい。

「ねぇ、ジン、分かったよ、彼が誰なのか」
「そっか」

ジンの少し後ろを付いて歩く。見慣れない黒髪が、そよそよと風に流れている。ジンの髪は元々白に近い緑色。現代では目立ちすぎるからといって、髪を黒にした。私は元々こんな感じの世界で生きていたから、姿が転生によって変わったとしても、一番しっくりくるこの色、黒い髪に黒い目。

「ジンは、最初から分かってたの?」
「うん、まぁね」

短い返事で彼は少しだけこちらを見てにっこりと笑った。

「そっか、ねぇ……私が新撰組苦手なの、知ってた?」
「うん、知ってたよ。僕はちゃんのことなら何でも分かるよ」

そうジンが言うのだから、そうなのだろう。
新撰組。武士道、命を奪い、そして奪われ。不器用な生き方の集団、それが私の印象だ。

ちゃんなら大丈夫だよ」
「うん……」

ジンの後姿を見ながら、私はきっと大丈夫だと思った。


**


「ただいまー」

鍵を開けて家に入ると、スパンッと襖が勢い良く開いた。
この家に居るのは今朝ジンが拾ってきた青年、もとい沖田総司だけである。
まさか、起きてみたら再び「あれ、ここ何処?」的な感じになって、攻撃しかけてきたりするのではないかと思い、思わず身体が構えてしまった。

(よし!いつでも来い!戦闘準備OKだぁ!出来ることなら来るな!頼む!)

血の気の多い奴、それが私の彼に対する印象だ。しかし、その思いに反して、

「すみません!厠どこですか!?」

切羽詰った様子で飛び出してきた彼の顔は少し青かった。

「へ?あ、はい!」

彼の余りの慌てぶりに、臨界点突破か!?と思い、履いていたブーツを脱がずに土足で上がって、トイレのドアを勢い良く開ける。

「ここ!この穴に的確に発射してくれ!零すなよ!」

私は彼をトイレの中に押し込み、再びドアを閉めた。

と、そこで私は彼にもう少し詳しく教えねばならないだろうと、思い至った。なにせ彼は江戸時代の人間なのだから。ペットも最初にトイレのしつけをする。いや別に彼をペット扱いするとか、そういうマニアックなことではないのだ。
もういいだろうと思い、トイレのドアを開いた。

「もう良い?あのね、………」
「わあぁぁぁぁ!!」

中を覗き込むと、まだ途中だったらしい。

「あああああ、ごめんなさい!見てません!ブツは見てません!」

すぱん!とドアを勢いよく閉める。ばっちり見たけど。物凄い一瞬ガン見しちゃったけど!



**



トイレの傍で座り込んで待っていると、ガツガツと中から音がしだす。
ん?ドアが凄い揺れてる。なんで?

「ドアの開け方分からないんじゃない?」

ジンの冷静な言葉に私は、なるほど、と立ち上がった。

「あ、そっか、江戸時代は引き戸だもんね。開けるよー?」

今度こそ大丈夫だろうと、返事を待たずにドアを開ける。すると此方側に彼がどすん、と倒れ込んでくる。体重をかけていたらしい。

(ちょ、っと……お前、手洗ってないよね?うん、なんていうか、可愛い男の子が私の胸にダイブしてくるのは大いに結構)

だが手はきちんと洗って欲しいかな、なんて。

「あの…」

青年は気まずそうに上体を起こす。

「君、この厠の使い方分かる?」
「あ、いや……」
「この取っ手をこう倒して、水を流すの。それから、この流れ出てくる水で手を洗って、このタオルで手を拭いてね。」

私の言う通りに彼は水を流して手を洗った。

「あ、因みにこのドアは、こうやって開くんだよ」

トイレの外に出て、がっちゃがっちゃ開けたり閉めたりして実演した。

「はぁ…あのさ」

青年が何か言いたげに言葉を発するが、私は別のことを考えていた。そういえば、もう12時だ、彼は朝ご飯を食べていないからお腹が空いているかもしれない。

「あ、そうそう、君好き嫌い無い?」
「……出されればなんでも食べるけど……いや、そうじゃなくて、」

私は既に自分の思考の世界に旅立っていたので、彼の申し出はほとんど聞こえていなかった。

「あ、今日の昼はうどんだよ」
「あ、僕ソバ派です。いや、だからそうじゃなくて、」

家はうどん派だなぁ、そういえば名前で呼ぶ方が楽だし、名前聞いとくか、うん、それがいい。
もう知ってるけど。

「うん、そういえば君名前何て言うの?」
「あの、」

言いにくいのかな、それとも先に名乗れってことかな。

「あ、私の名前はです。」
「それはご丁寧に。…………じゃなくて、」

ペコリと頭を下げる、彼はとても礼儀正しい。道場で育ったからだろうか。

「こっちはジン、私の父です」
「あの!」

さぁ、うどん作るか。

ちゃん、彼何か言いかけてるけど」
「え?あ。ごめん、気付かなかった」

うどんを作りに部屋に入ろうとした時に、ジンが助け舟を出した。

「状況が掴めないんだけど…」

すっぱりと、彼は真顔でそう言い切った。

「ですよね。そりゃそうだよね。まぁ、とりあえずご飯食べてからにしよう。うん、そうだ、それがいいよ」

腹が減っては戦は出来ぬ。きっとこの状態で話しても話にならないだろう。

「まぁ、うん、僕もお腹空いたけど…そういえば、さっき僕の…………見たでしょ。」
「え?見てないよ?」

曖昧な返事をした後、彼は顔を上げて私の背にそう言った。バッチリ見たのは見たが、まさか「見ました」などと素直に言えるわけがなかった。

「でも視線が……」

鋭い!さすがだ。

「…………気のせい、じゃないかなぁ」
「いや、絶対見たよね」

彼は言い切った。このままこの問答を続けるのも面倒くさかった。彼は私の話を聞く気がないようなのだ。

(つまり私に残された答えは肯定だけだと、そういうことだね、ワトソンくん、じゃなかった、沖田総司さん)

「まぁ、見られて困るもんじゃなかったよ?」
「やっぱり見たんですね」

彼は後ろから文句を言ってくる。トイレが長いのが悪い。男ならすぱっとじゃぼっと出せば良いのに、などと情緒のないことを考えた。

「立派なものついてたんだから文句言うなよ。ケツの穴の小さい奴だな」
「そういうこと言ってるんじゃ……」

買い物袋から材料を出しながら、私は適当に答えていたが、彼は納得いかないようだった。いやでも見てしまったものは、もう見てしまったわけだ。その事実を覆すことも出来ず、どうしたものか。

「まぁまぁ。君もすっかり家に馴染んだねぇ」
「……そうだねぇ」

そこで、ジンが助け舟を出してくれた。本日二度目。のほほんとした空気が流れた。すると彼も観念したようだ。良かった。

「…もういいです……」

彼はすっかり我が家に馴染んだらしい。警戒はもう良いのかな、組長それで大丈夫か、とも思ったが、これも私たちの体質のせいなのだろう。
ってジンが言っていたのを、今思い出した。この体質、凄く便利である。

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