お散歩





「沖田くん、出かけよう。ジンお留守番ヨロシクね」
「わかった〜」

まだ寝ぼけている沖田くんの髪を梳いて、服を着せる。されるがままになっている沖田くんはまだ眠そうだ。

「ん…なんなんですか?」

沖田くんは目をこすって、むにゃむにゃと舌足らずな平仮名発音でそう言った。可愛い!ぎゅうぅぅと抱きしめて頬擦りをすると、沖田くんは「いたいです」と少し不機嫌そうな声を出した。
明かりのある世界ではついつい夜更かしをしてしまう。彼は江戸時代ではきっと夜も朝も早い、そんな健康的な生活をしていたことだろう。と思う。

「今…時間…」

そう言う沖田くんに私は「8時だよ」と答えると、彼はしばらく目をぱちぱちとして、その後ばっと起き上がった。真っ青な顔で

「明け…5ツ…」

と呟く声が聞こえた。新撰組の朝は早い、と沖田くんが言っていたのを思い出した。まだ少し寝ぼけているようだった。

「ここは屯所じゃないから別に何時に起きても大丈夫だよ。でもこんな生活してると、戻った時大変だよ」

そう言うと彼は、はぁと安堵の溜息を吐いた。

「おはようございます…」
「おはよう」

      そんなに厳しかったのかなぁ…

薄桜鬼のゲームしてる時はそうは感じなかったのだが、彼の生きている世界がゲーム薄桜鬼の世界の「パラレルワールド」である以上、断言は出来なかった。

「はぁ…そっか…ご飯喰いっぱぐれることもないんだよね…」

と、沖田くんは安心した顔になった。そういうことか、と私は脱力した。ご飯争奪戦、つまり彼の朝の時間は戦争だったのだ。

「大丈夫だよ、ちゃんと沖田くんの分残してあるから。それ食べたら一緒に出かけようね…」
「はい」

なんか結構新選組も気楽な感じみたいです。いや、まだ激戦に巻き込まれていないときだからだろうか。



**



「じゃぁ、行こうか」

いざ行かん、と調子を上げたとき、

「あの、さん。」

沖田くんが眉を顰めて私の名を呼んだ。

「なぁに?」
「それ、何ですか?」

そういう沖田くんの視線を辿っていくと、その視線はブーツに向かっているようだった。

「ブーツだけど」

沖田くんは無言だ。ブーツは多分知ってる、はずだ。江戸時代は、特に幕末は西洋のものもかなり入ってきてるイメージなのだが、そうでもないのだろうか。

「えっと…」

沖田くんがそれから一言も喋らず私の顔を見ている。これは察しろということなのだろうか。

      あれ、そういえば…

「もしかして、沖田くん…私より身長低く見えるのが、嫌、とか?」

そう言うと、むすーっとした顔が更に険しくなった。頬を膨らませている様は、沖田くんには申し訳ないが、かなり可愛いと思う。私と沖田くんの身長は全く同じ。ブーツを履けば必然的に見下ろすことになる。

沖田くんは新選組の中ではどちらかと言えば大きい方だ。当時の平均身長が160無いのだから、見下ろされるなんてほとんど無かったろう。

      そんな事気にしてたのか…。

案外普通の男の子なんだなぁ、と和んだのは本人には内緒だ。私は彼の柔らかそうな頬を左右に引っ張った。膨らんでいて、なんと言うか引っ張ってくださいと沖田くんの頬が言ってた。うん、そうだ。私悪くない。

「なにふるんでふか!」

頭の上からぷんぷん!と怒った時に出る煙が見えるような気がした。なんだ、この生き物すっごい可愛いんだけど。

      悪戯してぇぇぇ…!!

「いや、なんか沖田くん、かわいいなぁって。」
「はぁ?頭沸いてるんじゃないの?!」

沖田くんは憤慨したように目を閉じてぷいっとそっぽを向いてしまった。そう言うところが可愛い。本当に可愛い。

「あ、うん。自覚してます」
「開き直らないでよ」

はぁ、と沖田くんは本日何度目かの溜息を吐いた。

      うわ、滅茶苦茶呆れられてるよ…私がダメな大人だからだ…!

私は無言でシューズに履き替えた。暖かいからブーツの方が良いのだが、ぶすくれた顔で隣を歩かれるのも嫌だ。



**



「ん〜寒いねぇ」

外に出ると、着込んでいるとはいえ寒かった。

沖田くんから返事は無い。後ろを振り向いてみると、沖田くんはずっと俯いたまま私の後をついてきているようだ。そんなに気にしてるのだろうか、身長のこと。

「子供っぽいって思ったでしょ」

気まずそうな表情で口を尖らせて言う沖田くんは、やっぱり可愛いのだと思う。

「ん?沖田くんも普通の男の子なんだなって思っただけだよ」

そう言うと、沖田くんは一瞬顔を上げた。私と目が合うと直ぐにまた俯いてしまったが。

「それを思ってるって言うんじゃ…いえ、なんでもないですよ」

      ほとんど言い切ったけど。そこで言葉を濁しちゃうんだ…

まぁ、良いか。今日は日差しが暖かい。こんな日は心もぽかぽかとしてくるものだ。

「もう直ぐ春だねぇ。春になったら、お花見しようね」
「僕がまだこの世界にいたらね…」

相変わらず彼はそっぽを向いたままだったが、ちゃんと返事が返ってきた。

「うん、勿論、沖田くんがまだこの世界にいたらの話だよ」
「約束は出来ないけど」
「うん」

そう言いながらもちゃんと約束をしてくれる。なんだか嬉しくなって、笑みが零れた。風は寒いけれど、お日さまがぽかぽかで、少しだけいつもより優しい気持ちになれる、そんなある冬の話。

早く来い来い、春よ来い。

「ちょっと遠出して、昼になんか買って帰るかー」
「そうですね、甘いもの食べたい」

      好きだねぇ

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