応援
「うわぁ…!凄い凄い凄い!」
「テンション高っ!近年稀に見るテンションの高さだな」
「う、うん、なんかすごーい」
は、友人の言う様にテンションが高かった。
死んだ魚の目ではなく死んだ目と形容されるは、普段あまり感情を高ぶらせることはない。というのは、クラスメイトの言い分だ。
話が盛り上がれば、も普通の女子高生の様に戯れる。
ただ、クラスメイトとはあまり話が合わないから、テンションが低いように見られがちなだけだ。
「結構、大きなところでするんだね」
「高校の体育館ですることもあるよ。今回は民間の施設だけど」
「ふーん………」
は周りを見回した。
「人、多いね…」
「黄瀬君目当てじゃない?」
「そうなのかな…」
は前日に、会場の様子を知るために動画配信サイトでインターハイ予選の様子を見ていた。それを見る限りではこれほど人が溢れている感じではなかったのだ。
「海常って、強豪校なんだよね。だからかも…」
黄瀬だけでなく、笠松とも面識がある手前、友人の言葉を肯定することはできなかった。
「連絡、入れないの?」
「あー…今集中してるかもしれないし…自重」
「そうだね、確かに」
**
「黄瀬?」
「ぅえ!?なんスか?別に嘗めてかかったりしてないスよ!」
今日の相手は格下だったが、誠凛の練習試合のこともあり、控え室はピリピリしていた。そこで主将の笠松に名を呼ばれ、黄瀬は肩を振るわせた。
「…………いや、携帯見てどうしたのかと思って」
「うーん…いや、さん来てるのかなぁ、と思って…音沙汰なしです」
「ふぅん…気、遣ってんじゃね?」
「そうなんスかね」
**
運動部と何の関わりもなかったにとって、「大会」というのは、無縁のものだった。
朝礼の時に、賞状を貰う姿を見るだけだ。凄いとも頑張ったねとも思わない、ただの儀式だった。あの賞状の授与が無ければ、早く朝礼が終わるのに、とさえ思っていた。
だが、にとって日常の一コマに過ぎない光景には、彼らの努力があったのだと、は今更ながら認識した。
素人目にも、海常の選手が相手よりも勝っていることが見て取れた。黄瀬が、格下だと言っていたことを思い出していた。
「っ…」
熱が生まれる。激しい熱がの中で生まれ、そして、吐き出せないまま貯まっていく。
興奮だ。
には、基礎的なルールしか分からない。一応体育の教科書で、ルールを見てきたが、実際に見ていると、その知識はほとんど意味を成さない。
めまぐるしく変わる攻守、息をするのを忘れる。
観客席にいても、気迫が伝わってくる。手を握る。じっとりとした汗をかく。
(凄い……)
言葉を発することも、億劫になる。周りの声援も気にならなくなっていた。それほどには試合に集中していた。
相手も、弱いわけではない。だが、それでも圧倒的だった。
試合終了のブザーが鳴り響く。
「ふぅ………」
どっと疲れた。
**
「?」
「ん?黄瀬君にメールしてる。ちょい待ち」
「りょーかい了解」
そう言って、友人はの携帯を覗き込んだ。
『見てたよ』
「それだけ?」
「何を言えと?」
試合を見ていた時の感想を説明すればいいのか、とはげんなりした。
「いや、なんていうか…愛想がない…」
「こんなもんですよ。つーか覗くな」
「えー…」
『見てたよ、興奮した』
それだけの内容を送信した。
すると、送信して携帯を折りたたむ作業の間に返信が来た。それをチェックしながら、歩く。
自販機が見えた。
「あ、飲み物買っていい?」
「良いよー。私も買おうかな」
汗をかいたことを考え、スポーツ飲料を買った。それを手にとって、顔を上げるか上げないかの時、声をかけられた。
「さん!」
「あ、黄瀬君」
それ以上何を言えば良いのか分からず、は、手の中にあるドリンクを差し出した。
「お疲れ様です」
「あ、りがとう…てか、それだけ?」
「え?」
黄瀬は素直にドリンクを受け取ったが、首をかしげた。顔は不服そうだ。
「もっと、凄かったーとか、おめでとう、とか」
「おめでとう、凄かった、興奮した。誘ってくれてありがとう」
「片言!」
言わされたということもあり、の言葉には感情が含まれてなかった。だが、嘘は言っていない。全て本当の感情だった。
「黄瀬君見たら、なんか興奮が一瞬にして萎えたっていうか…」
「なんで!?」
ショックを受けた顔で、黄瀬はに迫った。
「いや、あまりにも普段と一緒だから…バスケしてるときは、別人みたいだったのに」
「なんで、本人に会って、気持ちが萎えるんスか…なんか落ち込むっス」
黄瀬のあまりの落ち込み様に、叱られた犬がしょんぼりとしている様子を思い出し、罪悪感に苛まれた。
「……凄かった。私は自分の感情を言葉に表すのが苦手だから、……本当に凄かったと思ってるよ」
「………っ…」
はできるだけ真剣に、言葉を選んで言った。
黄瀬は息を呑んだ。予想外のことに黄瀬は固まった。が無言の黄瀬を訝しんで顔を上げようとしたとき、
「きせー」
向こうで先輩が声を上げているのが見えた。
「呼ばれてるよ。帰るまでが試合!」
「遠足っスか。じゃあ、また学校で!」
「うん、お疲れさまです」
ぺこりとお辞儀をして、は黄瀬を見送った。
自分の分のドリンクを買うお金がないことに気づき、はそのまま帰ることにした。
**
「何それ、」
「貰ったっス。……これ、さん、自分用だったんじゃないスかね」
「ふぅん。金は払ったのか?」
「あ、後で返しとくっス」
黄瀬は、差し入れじゃないからお金返すんだ、と納得していた。
「あれが、さん?遠くて見えなかった…俺も一緒に飲み物買いに行けば良かった…」
「いつも世話になってるっス。勉強とか教えて貰ってて…中間は、あの人のノートでなんとか…乗り切ったス…」
あれは辛かった、とやりきったような表情で言う黄瀬に、笠松はげんなりとした顔をした。
「お前なぁ……ちゃんと礼言ったか?」
「言ったけど…なんていうか、…もの凄く罵られたんで、素直にお礼っていう雰囲気じゃなくて…」
「罵(られ)……?」
早川が黄瀬の言葉に疑問符を浮かべた。
「馬鹿の相手は疲れるとか、その耳は飾り物か!とか、馬鹿と勉強しても実りがないとか、もう学校来んな、とか、殺すとか…」
「まぁ、事実だろ」
「せんぱいー!」
「くっつくな、うぜぇ!」
笠松に抱きつくと、笠松は本気で蹴りを入れた。
「あの人口汚いから、怒ると恐いんスよ…」
「そんな感じには見えなかったけどな…まぁ、毒舌なのは確かだが…俺と話すとき、ちゃんと敬語だったし…」
「それは先輩が先輩だからっスよ…あの人、凄い変わり身っスから…」
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