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書類作業で肩が凝ったので、ぐぃぃと伸びをした。上にぎゅぅと引っ張られるように伸び、そしてふっと力を抜くと、腕がだらんと重力に従って落ちる。
回転式の椅子で後ろを向くと、大きな窓から眩しい日の光が入ってきて、気持ちよかった。こういうことがあるから、人に似せてんだよなー、と思った。
「終わったよー」
「え?もう終わったんですか!?」
アレクセイは自身のデスク(私があまりにも抜け出すので、彼が簡易の机をこの部屋に運び込んできたのだ)で書類作業を行っていたが、一旦手を止めて此方を見た。
「うん。もう見終わってたから判子押すだけだったし。確認事項だけだったしね」
この体は何だってできるのだ。集中力が切れることも、実はない。私は人間のころの感覚が色濃く残っていて、多少は精神的な疲れを感じるのだが。なので、ちゃんとしようと思えばそれなりにできる。しようと思えば。
アレクセイは無言で私を凝視して溜息をついた。勿論理由はわかっている。最初からそうしとけという視線だ。
結局優秀なカラダと脳みそを手に入れても、ギリギリにならないとエンジンがかからない性質はどうにもならないかった。そもそも脳が優秀といっても、忘れないことと演算が速いという能力を手に入れたに過ぎない。感情的なところは私なので、頭が良いわけではない。知識量のおかげでどうにかこうにか普通の人間に勝っている状態だ。人外も意外とへちょいのだ。いや、私がヘボなのだ。
すまん、アレクセイ君。
「あ、アレクセイ、私魔術の授業見てみたい」
「魔術の、ですか?」
「うん」
前から気になっていたのだ。カリキュラムは私が大まかな所を作ったが、実際の授業内容を決めたのはアレクセイだ。私があまりこの世界の魔術に明るくないためだ。
「様は少し違うアプローチで魔術を使うので、見学なさるのも良いでしょうね」
エアルを使わない方向で私は魔術を使っている。無論使おうと思えば、既に私は使えるのだ。隊の者が使っているのを見たことがある。そして私には、一度見たり聞いたり体験したりした出来事は必ず行使できる≪絶対行使能力≫がある。
授業を見たいのは知りたいからというのとは違うのだが。説明する必要もないか。
教室に入ると、緻密に組まれた公式がずらっと黒板に並んでいた。水の魔術だろうか。属性選択、座標の決定、威力の調整、等々。式を積み上げていくことで、発動に至る。
おおまかな要素は三つ。どの属性を使うか、どの位置に展開するか、そしてどんな反応を起こすか。上級になると組み込み式は段階的に増える。無論複雑な式だからと言って、極力とは限らない。各要素同士の兼合い、威力、等々。成程。
「様は、こういう授業に興味があるんですか?」
「うん?うん。自分の知らないことを知るっていうのは、なんか楽しいよね。まぁ、私が魔術の講習については君に丸投げしちゃったから、気になる、というのもあるけどね」
アレクセイは頷いた。
剣術指導については、ある種のセオリーがあるので、私が授業計画を組んだ。それこそこれまで溜め込んだ知識で行ったことのある世界の良いとこ取りをしているわけだ。
懐かしい光景だ。ここ最近は現代風だったり安定した世界で過ごすことが多かったから。ファンタジー世界でも、旅をしていることが多かったので、こういった座学は本当に久しぶりだ。
「黒板の術式が完成してますから、これで終わりですよ。あとは実践です。各々、得意な魔術と言うのも出てきますから、」
そっか、属性ごとに学ぶんじゃなくて段階を追って説明してるんだ。
「初級魔術の実習の後は、次は中級魔術ですから、またこの類の授業は行われますよ」
「へぇ。それは是非とも受けたい」
学問の道から遠のいていると、こういうものが恋しくなるのだ。頭に公式を詰め込み、実行・応用する。心躍る。問題が解けたときの快楽に身を沈めたい。
「様の魔術はこういう形式じゃないですもんね」
「うん。そっか、皆こうやって魔術出してるんだ。あ、今日の予定何だっけ?」
「この後は剣術初歩、午後からは魔術の演習、更にその後は個別の選択演習ですね。勤務の方は早朝に行われてましたから」
尋ねるとアレクセイは何も見ずに今日の予定をスラスラと述べていく。彼は演習の監督をしているため、予定が頭に刷り込まれているのだろう。
それにしても過酷な時間割だ。いや、これら全てが自分を守る矛であり盾になる。決して欠かせないものだ。私が生身だったら絶対に無理。というより絶対に嫌だ。
私はというと、完全に生活のリズムが違う。書類書類書類、とあとは見回りやら、会議(という名の蹴落としあい)やら社交(という名の蹴落としあい)。渉外一般を担っている。これも立派な仕事なのだが。
「分かった。今日は私も勤務の方は終わったから演習の方、見て回ろうかな。退屈な会議もパーティも今日は無いし」
うんざりしたように言うと、アレクセイは頑張ってください、と少し微笑む。私向いてない。向いてないよー。
「私はこれから剣術指導に入りますので、これで」
「うん。頑張ってね」
騎士の卵たちも忙しいもので、「勤務」と「演習」をこなして一人前の騎士になれるのだ。半年間はこうした初歩を叩き込まれる。この後も訓練は続くのだが、それはほとんど実践を模したもので、その辺りから新人扱いはなくなる。その集大成として、演習遠征があるのだが。あれは果たして演習の範囲か?
シュヴァーンの足音が聞こえる。依然会ったときとは足音の質が違うが、紛れもなく彼のものだった。
「あ、ルーベンス隊長。…ルーベンス隊長?」
彼は私の歩く進行方向に回り込んで、隊長、と呼んだ。
「え?ああ私のことか。ごめん、ファーストネームの方で呼んでもらえると助かるんだけど」
私は未だに新たな名前に慣れないでいる。もう5年以上経つというのに、どうしたものか。こうやって名前で呼ぶように言ってしまうから、余計に慣れないかもしれない。だが皇帝も私のことをと呼ぶのだ。
5年も経てば、陛下のこともある程度分かってきた。この名は私を守るための物なのだ。私のお気に入りだから手出し無用、と。だから呼ばれる呼ばれないに関わらず、このルーベンスという名は持っているというだけで価値のあるものなのだ。
「え…あの、…隊長……?」
彼は上目遣いで(身長が20cm程違うので当たり前だが)、おずおずと名前で呼ぶ。上目遣い禁止令を出したいが、身長が高い私が悪いのだ。安易に初トリップ時に浮かれて高身長の方が格好良い、みたいに設定してしまったから。
いや!絶対みんな浮かれてキャラデザしちゃうから!私じゃなくても同じ状態になるはずだ!私が厨二病なわけじゃない!
そして、このダミュ…シュヴァーンは…おずおずと私の名前を…!!
「あ…」
パタパタと血が滴る。
「隊長血が…これ、良かったら使ってください…」
本当にいい加減この設定は廃止しよう。
シュヴァーンは、多少引きながら、純白の支給品の手ぬぐいを両手で献上するように差し出す。とてもいじらしい様子だ。たぶん。その純白を真っ赤な血で染めるのも躊躇われたが、断るのも気が引けたので受け取ってそれで鼻を押さえる。あとで新しいものを渡してあげよう。
「悪い…で、何か用だった?」
鼻血は直ぐに止まる。そういう仕様なだけで実際にこの身に血が流れている訳ではない。だから一定量出れば止まる。
「は…い。隊長は魔術が使えますか」
「…うん。まぁ、使えるけど、使え、る?けど」
隊長に向かって「使えるか」は無いと思うが。もしかしたら前の隊の隊長は使えなかったのか。もしくは私のサボリ癖は隊内では有名なので、使えないと思われたのか。
初期メンバーは知っているのだが、もはや平隊員からすると、かなり雲の上の人なので、気安く話は出来ないのだろう。
痛いところをつかれた。使えるには使えるが、教えるとなると少し時間が欲しいところだ。書物から知識を吸い上げてこなければ。数時間で構わない。確かこの男は適当詠唱で魔術を完成させてしまうし、なんか突発的に魔術開発するような奴だ。私には手に負えない。
「あの…!!教えてください!!」
頭を下げて、頼み込むシュヴァーンの期待に応えてやりたい。だがその数時間を作るのが大変なのだ。このあと陛下に呼ばれているし、そのあとはアレクセイと戦術会議だ。それを進めつつ、やはり演習遠征のための資金集め。からのカリキュラムの見直し。てんこ盛りだ。いい加減市民街にも行かなければ、顔を忘れられそうだし。折角作ったパイプが細くなるのは、これまでの努力が水の泡。貴族のサロンにも顔を出したい。夜は今日は何も無いが、無いなら無いで寝たい。
「そう…ね、……アレクセイに聞いたほうが良いと思う。大丈夫。厳めしい顔してるけど、頼られるの好きなタイプだし優しいよ」
と大々的にプッシュしておいた。
「え、あ、そうです…ね」
明らかにしょんぼりしたのが分かった。思わず抱きしめそうになる手を引っ込め、頭を撫でる。
「うん。ごめんね」
失礼します、と敬礼して去って行った。
さて、シュヴァーンとのやり取りを陰で見ているのが、一人。
「様鈍すぎです。わざわざ直属のアレクセイ様でなく、貴方に言いに来たのですよ」
ととと、と駈けてきて私の隣に並んだ男は突然そう言った。
「イエガーか。…私魔術使えないしなぁ。今のは仕方なかった」
「え、でも使えるって」
お前どこから聞いてたんだ。いや、最初からだってことは分かっているのだが。
「使えるっちゃ使えるんだけど、様式が違うから教えられないんだよね。勝手したらアレクセイに怒られちゃう」
「そうでしたか」
イエガーは納得してくれたみたいだ。
「うん。だから聞かれても困るっていうか。まぁ、誤解だけは解いておこうかな」
「そうしてください」
にっこりと笑ったその目は笑ってはいなかった。私は苦笑いをした。
「ちょっとの間で仲良くなったもんだな」
「ええ、まぁ。なんていうか、あいつ危うくて放っておけないんですよね。庇護欲擽られるというか…」
なるほど、分かるような気もするな。
ツンを隠すためなのか、つくろうような様子が何とも言えず可愛いのだ。
とはいえ、何かの違和感を感じる。厭世的なことを言う割に素直で、素直な割に手の内に収まらない。これってキャラブレしてんじゃないか?キャラブレの要因なんか決まっている。それが素の姿でないからだ。
だがそれが透けて見えているのだから、私には気を許しているのだろうか。そんな簡単な話でもないような気がする。
「イエガーもこれから剣術?」
ぶん、ぶんと剣を振る真似をしながら聞くと、「ええ、そうです」と頷いた。
「一緒に行こー」
イエガーは目をさ迷わせた。気さくに話しかけてくれるのだが、やはりどこか距離を感じる。一応隊長という立場なので仕方ないとはいえ、少し寂しい。
執務室や隊の寄宿舎では割と無礼だが、公の場に出ると、途端私といたくないような態度になる。寄ってきたのはそっちなのに…。
彼にも貴族としての立場があるのだろうし、文句は言わないが、寂しいものは寂しい。
***
「そういえば、隊長って剣術とか魔術とか使えんのかなぁ」
「え?使えるだろ」
「でも使ったところ見たこと無いって先輩が」
「そんな人に仕えるの嫌だなぁ…」
はっきりと聞こえてしまった陰口にどう反応してよいのかわからず、私はそこに立ち尽くしてしまった。私の半歩後ろで聞いていたイエガーも狼狽えている。
誰だ、その先輩は!毎回遠征ではかなり必死こいて戦っている。
大々的な新人受け入れは初めてだが、毎年十数人の受け入れはある。その中の一人だろう。まだ遠征には連れて行っていない。
しかも普段はほとんどデスクワークで、彼らの前で仕事らしい仕事はしていない。事務作業も立派な仕事なんだよ。君らがここで訓練できるのも私の手配なんだよ…。とは口には出さないが。
外回りの仕事はアレクセイがしてくれており、私の仕事は目に見えにくいので、彼らに何も出来ない上司と思われても仕方ない。私が貴族であることも一因かもしれない。戦いは苦手なのでそれでいいんじゃないかと思っているが、指揮が下がるのは困る。ここらで見せておくのも良いだろう。
「小隊長は、この後集まって」
「…はい!!」
小隊長たちにも聞こえていたらしい。皆一様に表情が固い。
この時期は指導メインで仕事が組まれているため小隊長は身体が鈍るといつも愚痴を言っていた。私も最近、いやずっと机に噛り付いていると、身体が世界と同化していくような、私という「個」が曖昧になるような感覚があった。身体を動かすことでそれが解消されるのかどうかはわからないが。
「君らも教えてばっかだと身体が鈍るよね。という事で、ちょっと手合わせしよっか」
小隊長たちは、 あまりの驚きに目玉が落ちてしまいそうになった。 目を見開いて、というよりも引ん剥いて驚いていた。失礼にも程がある。私も部下のために(私のためでもあるが)何かをしてやることもある。
「…別にいいって?うん…ごめん、差し出がましいことを申しまして……」
「いや、そういうわけじゃ!!いや、あの、驚いただけです!喜びの余り!」
と、慰めの言葉をつぎつぎと投げかけてくるが、逆効果なような気もしてきた。あまりにも必死なので少し面白くなって、しばらくはそれらを聞いていた。
「いや、本当に、嬉しいです!やりましょう!」
良い部下ばかりで少し顔が綻んだ。下の者がしっかりしてると、色々と助かる。上がちゃらんぽらんでも、なんとかやっていける気がする。気がする。
「じゃぁ、やろっか。ハンデとして魔術は詠唱有りでいくから」
私が使う魔術はこの世界のものではない。そのため詠唱を必要としない。どんな詠唱にしようかなぁと考えながらそう言うと、皆は慌てた風に、
「全然ハンデになってませんよ。魔術封印してください」
などと言った。こちらは6人を1人で相手するというのに。別に良いのだが。
「嘘でしょ!?私どちらかというと術者向きだと思ってるんだけど」
「魔術は無しの方向で」
私の抗議には全く応えず、皆は口をそろえて言った。
「流石に新人に、完全敗北の上ばたつく様子を見られたくないんです!」
と言われてしまえば、私も何も言えない。
魔物討伐のときは真剣に取り組む私も、流石に部下相手に手も足も出ないような攻撃をするつもりはないのだが。どういう風に思われているのだろうか。
私たちのような者は、知識と経験を豊富に蓄えており、経験したことであれば何でも実行することが出来る力を持っている。ジンはこれを「絶対行使力」と呼んでいたが、その力のお陰で私は無敵というわけである。
夢小説よろしく異世界トリップした人の中には一般人で力も無いという人もいるというのに、私はその点では幸運だったのだろう。と、遠い記憶に思いを馳せた。もう私が一般人だったときから幾千の時を越えたのだと、しんみりと思った。
「貴方なら、魔術無しでも私どもに負けることはありませんよ」
アレクセイはそう言う。皆私を買い被りすぎなような気もするが、慕われているともいえる。嬉しい限りではある。
「んー…」
しかし、そういう問題ではないのだ。こいつ剣も魔術も使えない、という誤解を一気に解きたいのだ。
とはいえ、戦々恐々としている彼らを見れば、またの機会にしようと思った。
剣が刺さっているケースから剣を選ぶ。新人たちは自分の剣をまだ持っておらず、訓練の度に支給される。訓練や任務以外では帯刀も認められていない。時間外の訓練の場合は受け付けで記帳してから借りる仕組みになっているのだ。人数分以上借りてこられた剣の中の一本を引き抜いて数回振る。
そうして始まった手合わせという名の釈明。
キン、キンと小気味良い音が響く。
ブルーノは弓と攻撃系魔術が得意だ。弓は持っていないから、魔術中心で攻めてくるだろう。いや、ダガーを投げてくるかもしれない。どちらにせよ、遠距離タイプ。懐に入り込みたい。
ダニエルとエドバーは双子故か、連携プレイが光る。比較的小柄で素早い。切り込み隊長だ。まぁ、剣撃が軽いということもなく、結構ガンガン来るので、こちらは逆に踏み込まないのが吉だ。
クレオは槍使い。高身長で、体術もお手の物。彼も余り近くには寄りたくない。
フェイは魔術特化。回復術にも長けている。回復されたら埒があかない。光魔術も範囲が広く捕まると抜け出しにくい。一方で広範囲魔術が得意なため、自身の近くでの魔術展開ができないのだ。離れるだけ彼は相手がしにくい。こちらは魔術が禁じられているし、サブウェポンはあまり持たない主義だ。本来は手数で勝負が私の戦闘スタイルなのだが。
そしてアレクセイ。オールラウンダーのアレクセイは一番厄介だ。斬撃は重い、が動きは思いのほか俊敏だ。魔術も簡単な回復術も使える。
そうして一人一人分析をしていく。私も戦いに慣れたものだなぁとどこか複雑な気持ちでいた。
攻撃を避けながら、どう攻めるかを考える。今は私を囲むように場所取りしながら、皆が各々に仕掛けてくる。回復持ちの二人は先に倒しておきたい、がフェイは突っ込んでくることはないだろう。一人で戦うスタイルが好きなアレクセイは戦いが長引くと一人で切り込んでくる癖がある。よし、今だ。
ダニエルは右から、エドバーもそれに合わせて左から切りかかってくる。後ろにはアレクセイの気配が近づいている。ぎゅっと地を踏みしめ、上に飛ぶ。自分の足の下でキンと、二人の剣が鳴る。
そのあいだにフェイは風の、ブルーノは火属性の魔術の詠唱を始めており、巨大な炎が私に襲い掛かってくる。
つーか、皆オーバーリミッツだからな!
マジで殺る気らしい。
空中で身体をひねり、回転しながら炎を避けて地に着地する。その着地地点にはアレクセイが構えており、彼の重い剣撃が繰り出されようとしていた。それを剣で受け止め、反動で後ろにぴょんぴょんと飛ぶ。
そこにはクレオがスタンバイして、リーチの長い槍を突き刺そうとしているときだった。身体を右に反らし、槍を避ける。 そのままクレオの方にくるりと体を向け走りこむ。槍の持ち手を掴み引き寄せ腹に蹴りを入れる。
後ろから体制を立て直していたダニエルとエドバーが迫る。持っていた剣を空中に投げると、二人は剣の行方を目で追う。
直ぐに視線を私に戻すが、その一瞬の隙に、右手でエドバーの刀を持つ方の腕をひねり上げ、身体をひねってダニエルの右手を蹴り上げると二人は手に持った剣を落とした。
左手を地面に着き、体制が崩れそうになるのを建て直し、落ちてきた剣を掴み、エドバーに切りかかる。 ダニエルはというと、右手を押さえながら後ろに飛びのき、
詠唱を始めている。因みに先ほどから容赦なく詠唱破棄でフェイとブルーノは魔術をけしかけてきているが、それは剣撃で蹴散らしたり範囲外に逃げたり。追跡型の魔術を使わないのは、私がそれを利用して味方に当てないようにだろう。
ダニエルの詠唱を阻止すべく、彼の落とした剣の鍔に自分の剣先を引っ掛けて投げ飛ばす。するとピンポイントでその剣は彼を襲う。
ダニエルの詠唱は止まったが、彼に迫った剣はアレクセイが弾き、彼にダメージはなかったようだった。アレクセイはその後、此方に向かって走り込んでくる。
速い!!
後ろに下がる速度より、突っ込む速度の方が速いに決まっている。剣が目前に迫るが、その刃が肉を引き裂く事はなかった。きゅるきゅる、と音を出しながらアレクセイの剣は何かに抗われる。
しかし、彼の剣を止めるものは何も見えない。尚もきりきりと、弾き返されそうになるのをアレクセイは必死に力を込めて押し返す。
「ふー。魔術なしとか無理だからね。私、遠距離支援型だからさ」
そう言うと、アレクセイは首だけを後ろに向ける。そういえば、こうしている間にも攻撃を仕掛けられるはずなのに、後ろからの攻撃支援がない。
「詠唱は、有りだと…」
「詠唱したよ?敵に聞こえるように詠唱してどうする。弾かれるだろう?」
彼以外のほかの隊長は、何かの力によって縛られていた。因みに詠唱はしていない。戦いに必死で詠唱どころではなかった。戦いには大分慣れたと思うが、このピリピリした空気に慣れることは無く、恥ずかしながら未だに私は戦いに対して内心ビクビクしていた。
恐怖心があっても、このカラダは私の意思とは関係なく的確に動くもんだから、便利なものだ。
「良かったね。これ以上アレクセイが気付かなかったら君達は窒息死していただろうからね」
そう言うと、アレクセイはじと目で私を睨んだ。
「……冗談だよ〜私が君たちを殺すなんてこと、する訳ないだろう。はははは…は…ごめんなさい」
詠唱をされては困るので、彼らの顔の周りを密閉空間にしておいた。人差し指をくるくると回すと、風たちが分散していく。ぷはっ、と酸素を吸い込もうと5人は必死になっている。
「様、参りました」
「うん。参れ参れ」
「しかし様、貴方は戦闘を長引かせすぎです。もっと素早く私たちを倒すことが出来たはずです」
アレクセイが詰め寄る。反省会は大切だ。やりっぱなしは意味がない。
「それじゃぁ、意味がないと思ったからね。別に私は君らを倒すために剣を抜いたんじゃない。君たちの身体が鈍っているのではないかと思って稽古してやったんだ。君、長引くと1対1に持ち込む傾向があるだろう。1対1は剣を使う戦法の時は有り難いね」
得意げにそう言ってみせると、アレクセイは嫌な顔をせずに、キリリと背筋を伸ばしてお辞儀をした。
「ご指南、有難うございます!」
そして他の小隊長たちもきびきびした動きで礼をした。
「アレクセイ、みんな、私は戦うのが得意ではない。だけど、それでも戦わねばならない時には剣を取ろう」
剣を掲げる。剣先が太陽を反射してきらりと光った。アレクセイを始め、小隊長たちはその剣に添えるように自らの剣を掲げる。
「はい、様」
すると、周りで見ていた騎士たちが、一斉に拍手しだした。
うわぁ…今私目立ってる…。恥ずかしい!!めっちゃ照れる!
「じゃ、じゃぁ、行くぞ。お腹すいたぁ……!もう駄目。パフェ的なものが欲しい。私の身体が甘いものを欲してる」
「パフェなんてありません。騎士団の食堂は喫茶店じゃないんですよ!」
相変わらずきびきびした鋭い突っ込みで私を制すが、私はあっけらかんとサボり宣言をした。
「よし、後は任せたアレクセイ!今日の仕事はちゃんと終わらせてあるからー」
「駄目です!」
「アデュー」
「さま!!!!私だって我慢してるんですよ!?」
***
もう無理もう無理もう無理。だって、愛しのマリアに、ユーリに、あの、あのパフェに………何ヶ月会ってないと思ってるんだ。
嗚呼、パフェ…
その前に陛下に会いに行って、それから貴族たちに挨拶回り、するにあたって市民街で買い物だ。手土産は必要だろう。アレクセイとの演習の戦術会議は延期だ。机の上に資料は纏めておいたから、先に読んでいてもらおう。カリキュラムの件は脳内で処理する。これで一日の仕事が滞りなく出来ているはず!
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