月見酒
「お団子、は出来たし、あとは何がいるかなぁ。ススキは取ってきたし」
陶磁器の花瓶にススキが差してある。青磁、とか言ったか、私はあまり詳しくない。良い物なのは私にも分かった。なんでこんな花瓶があるのか、恐らくこれもジンの物だろう。緑がかった淡い青色、ススキは白っぽいので、黒いものの方が映えると思うのだけれど、ジンがこれで良いと言っているのだから良いのだ。我が家で最終決定権をもつのはジンだ。
ん〜と考え込んでいると、後ろから風呂上りで身体をほかほかさせた沖田くんが現れた。
「お酒飲みたいです」
「沖田くん、未成年でしょー」
確かまだ19歳だって言ってた気がする。
「僕、もう元服…」
確かにもう沖田くんは大人なんだろうけど。
「ここでは、20歳になるまでだめなんだよぉ?」
「えぇぇ…」
沖田くんは本気で残念そうな声を出した。
「沖田くんってお酒好きなの?」
「まぁ、」
沖田くんはタオルを肩にかけて仏頂面で答えた。そんな沖田くんが言っている事は大人なのに、仕草が妙に子供っぽくて少し笑えた。
「しょうがないなぁ。家の中だけだよ?何が好き?」
ポタポタと雫を落とす沖田くんの髪を肩にかけてあったタオルで拭いていく。沖田くんは面倒くさがって何度言っても髪をきちんと乾かさない。この作業は今や習慣になった。
「え、冷やでも良いですけど、やっぱり熱燗で、きゅー…っと」
沖田くんはお猪口を持つような手で、ぐいっと仰いで見せた。
「沖田くん、おっさんくさい」
私がそう言うと、沖田くんは背を丸めて振り返って上目遣いに私を見た。
「そうですか…?」
不安げな声音で沖田くんは尋ねる。その声を受け入れながら、ポンポンとタオルに水滴を吸わせていく。昼間はまだまだ残暑で暑いのだが、夜は冷える。ドライヤーもかけたほうが良いかもしれない。
ドライヤーを引出しから取り出して、コンセントを入れる。
「うん。凄くおっさんくさい。言ってることが岡さん所のおじさん衆と同じだよ」
「そ…そうですか?」
今度こそ沖田くんはあからさまにショックを受けたような表情をした。まぁ、まだ19歳。これは開き直れるほど歳を食っているわけでもない微妙な時期なのである。
「うん」
肯定すると、体育座りをする膝に額をつけて本気で落ち込んでしまった。びゃーと音を立てるドライヤーの風を沖田くんの髪に当てていく。私よりも少しだけ色素の薄い彼の髪が風に流れる。猫はドライヤーが嫌いで、いつも風呂に入れても乾かせてもらえない。沖田くんもいつも目を瞑って、暖かい風に見を縮こまらせる。
猫、みたい。
かち、とドライヤーをオフにする。パチリと目を開けて、ぶんぶんと頭を振る。猫も風呂に入れると同じ反応をする。そして猫は洗って綺麗になったはずの毛を丹念に舐めていくのだが、いつか彼も自身の身体全体をその真っ赤な舌で舐める日が来るのではないかと、そんな途方も無いことを考える。それ程、彼は猫みたいな奴だった。
櫛で彼の髪を梳いていく。
「まぁ、気にするなよ。な。それよりお酒これから買いに行こうか。沖田くんの知らないお酒きっといっぱいあるよ」
「はい!」
元気よく返事をする沖田くん、そんなにお酒が飲みたかったのか。言ってくれれば買ってきたのに、と思いながら私は出かける準備をした。
***
「そういえば、さ。沖田くんってお酒強いの?」
「さぁ、土方さんよりは強いと思いますけど。どうだろ、強いのかなぁ」
次から次にカゴにお酒を放り込んでいく姿を見て、私は不安になった。
「土方さん下戸なの?」
「はい、全然ダメなんですよね」
何でもないように、彼は尚もカゴに入れていく。ジンの手には2つの買い物カゴ、私も1つ持っている。店の人は宴会をするのだろう、とでも思っているに違いない。
「さんは飲めるんですか?」
「まぁ、酔えたためしがないけど」
この身体のせいなのだが、それを敢えて彼に言う必要は無いだろう。酒の類を毒か何かかと思っているのか、全部浄化されているようだった。
レジを済ませて車に酒を運び込む。それを見て、私は大丈夫なのかなぁと凄く不安になった。
因みに車は、あの夏の猛暑の夜にジンに言ったら、次の日にはガレージに泊めてあった。
おまけ。
「っあー…」
ビールをぐびぐびと飲んで、沖田くんはおっさんみたいにぷはーと息を吐き出した。
「沖田くん、飲みすぎだよ…」
「らいよーぅらっぇーあははは…はははははは…」
「大丈夫だって」、かな?呂律回ってないんだけど、これって大丈夫?大丈夫なの?
「笑い上戸なんだね」
「ジン、そんなに冷静に…」
オレンジジュースをちびちび飲んでいるジンは、事も無げにそう言うが、これは二日酔いが酷いのではないかと思う。
「強いっちゃ強かった、けど、これは…」
チューハイの缶多数、一升瓶数本、徳利、他、ワインなどなど、床に散らばっている。
私が飲んだのは、沖田くんに注がれた数杯、ジンはお酒を飲まない、つまりこれのほとんどを沖田くん一人で飲んだわけで。
「あはははははは、気持ちいー…酒持ってこーい、あはははははは」
「だめだ、こりゃ…」
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