貴方の事をずっと、





羽を持つ黒羽丸に追いつけるはずもなく、はとぼとぼと家に帰った。

は疲れていた。精神的にも、肉体的にも。
電気をつけずに、真っ暗な状態では階段をゆっくりと上った。駆け上がる気力も無かった。シャワーは学校を出る前に浴びてきた。そのままベッドに倒れ込み、そっと目を閉じる。

ぼんやりとした意識で、は夢か現実かもわからぬまどろみにいた。


「黒羽丸さん…」

ぽつりと呟いた声はしんとした部屋に響いた。







「何をしているのだろう」と自問自答しながら、黒羽丸は真っ暗とは言いがたい空を飛んでいた。

黒羽丸は先ほどのの姿を思い出していた。酷いことを言ったのに、はそれでも黒羽丸に手を伸ばした。

何度許されるのだろうと、何度までなら許されるだろう、黒羽丸はそんな途方も無いことを考えた。

……」







は頭の中で何度も何度も、黒羽丸を犯した。


閉じ込めて、

愛すからと言って、

ずっとずっと、

閉じ込めて、

貴方が俺だけを見て、

俺だけを呼んで、

俺だけと抱き合って、

ずっと、ずっと、真っ暗な世界に、

二人で

二人でどこまでも、堕ちよう

世界に俺と貴方しかいない、

そんな深淵に、      



そんな所に行きたいのか、よく分からないまま、は黒羽丸の上気して仄かに赤くなった肌を、何度も確認するように掻き抱いた。幻であるはずのその肌は、しっかりと熱を持っていた。

(違う、だって、知ってる。黒羽丸さんは、月明かりに照らされてるとき、凄く綺麗で、だから、閉じ込めたりしたら、きっと死んでしまう。死んで、しまう。輝きが、死んでしまう)

は黒い翼が生える背に指を滑らせた。翼の付け根に触れると、黒羽丸の体がびくりと跳ねた。そっと羽に口付けた。

(夜の空、が、この人の住んでる場所なんだ)

鼻がツンと痛くなった。



「うぅ………うう…」

は、自分の声で目を覚ました。どくりどくりと、心臓が波打つ。気持ち悪い。
熱は未だ収まらず、を責め立てた。

荒ぶった心と体に、は涙を流した。

はその辺にあった衣服を身に着け、外に出た。初めて黒羽丸を見たあの日から続けているの日課だ。探して探して、探して、やっとあの日、黒羽丸に会えた。

「自分には何の取り得も無い。こうやって追いかけることしかできない、諦めたら一生会えないのだ」、そう言い聞かせて、は走った。

「黒羽丸さん…!」









「黒羽丸、」

最近は妖の姿でいることの多かったリクオが、今日は珍しく人の姿でいた。

「リクオ様…」

黒羽丸は疲れていた。知らない感情が渦巻いて、自分という者が何なのかも分からなくなるような、そんな劇的な変化についていけなくなっていた。

「……僕は、誰かを本気で愛したことがないから、分からないけど、その男の人、凄いって思うよ。黒羽丸もさ…惹かれてるんだろ?」
「……それは…」

黒羽丸は言い淀んだ。そんなことはない、とさえ言えなくなっていた。そんな自分の本心を突きつけられて、黒羽丸は混乱した。リクオの真っ直ぐな目が黒羽丸を射る。
リクオはそんなつもりはなかった。だが、黒羽丸の心理状態が、まるで、罪を暴かれる罪人のような気持ちにさせていた。

「リクオ、こんな所にいたのか」

鴆がひょっこりと顔を出した。この場に相応しくない豪快な声音だった。

「鴆君、いらっしゃい」
「なんだ、珍しい組み合わせだな」
「ああ、うん……」

リクオはちらりと黒羽丸を見た。黒羽丸はびくりと体を震わせた。

「あ、そういえば、鴆君は知ってる?」
「ん?」
「ピンク色の髪の男の子が、『黒い羽を持った天使を知りませんか?』って聞いて回ってるの」
「リ、リクオ様…!」

何を言い出すのだと、黒羽丸は咎めるようにリクオの名を呼んだ。だが、鴆の耳には届いてしまった。

「ああ、聞いた聞いた」
「ぜ、鴆様…!?」

鴆までもが知っていることに、黒羽丸は絶句した。

「そういや、俺のところに来てる客の息子らしいな。なんだ、お前の事だったのか、まぁ、天使、ねぇ…」
「あ、あの、本当に、もうやめてください…」

からかうような視線に、黒羽丸は居た堪れなくなった。

「何年も前から、そんなこと言ってるって聞いたけど…」

黒羽丸は目を見開いた。黒羽丸は何も言わずに外に出て、一瞬のうちに空に飛び立った。

「黒羽丸?おい…!どうしたんだ…」

鴆はリクオと顔を見合わせた。礼儀には厳しい黒羽丸が、上司である二人に何も告げずにさってしまったことに、二人は驚いていた。

「どうしちまったってんだ…」
「さぁ…」

リクオは知らぬと言いながら、にっこりと微笑んでいた。

「……がんばれ、黒羽丸」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、なんでもないよ。それより、何か用だったの?」
「ああ」






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