6月18日
梅雨、鬱陶しい天気が続く。そんな日、教室に着くと、黄瀬の机の両サイドに大きな紙袋がぶら下がっていた。
「ん?凄い荷物やね」
「あ、そうなんスよ。今日俺誕生日で…」
はふぅん、と一瞬流してしまった。
「え!?そうなん!?」
「あ、はい」
きょとんとした顔で、黄瀬は答えた。
「なんで言ってくれんのん!」
「え?あ、なんか…催促してるみたいかなって…思って…」
おずおずと言う黄瀬に、は叫んだ。
「バッカ、変なとこ気遣うなよー。もっと遣うところあるやろ」
の言葉に、黄瀬はおろおろした。
「うぅ…ごめんなさいっス」
「いいよ、いいよ、別に!まぁ、おめでとう」
泣きべそを書いていた黄瀬の表情は一瞬で明るくなった。
「ありがとうっス!」
にっこりと黄瀬は笑った。
(現金…ってか簡単な奴やな…)
「まぁ、誕生日って言っても、別に特別どうってわけじゃないし…」
黄瀬が困った顔で笑った。
「なんでぇ、生まれた日よ?黄瀬君がこの日に生まれんかったら、もしかしたら、私らは出会えんかったかもしれんのに。そう思うと有り難い日やろね」
「………そんなこと、思ったことなかったっス」
黄瀬はえへへ、と笑った。
「黄瀬君って、…」
「はい?」
「……………いや、なんでもない…」
普段女の子に見せるような笑みではなく、世界が華やぐようなそんな優しい笑顔だった。その笑顔に不覚にもときめき、は顔を逸らした。
(………黄瀬君が「俺、人を幸せにするために人間界に降りてきたんスよ!」とかいう天使設定を突然落としてきても信じるぞ…)
はそんなことを思いながら、席に着いた。
(何あげよ…)
はそのことばかり考えた。
**
次の日、が学校に着くと、黄瀬は相変わらず一人でつまらなさそうに、机に頬杖をついて、窓の外を見ていた。
「黄瀬君、おはよー」
「あ、おはようっス」
ぱっと黄瀬の顔が笑顔になった。は無表情に机の上に紙袋を置いた。淡いピンクに、白いレースの絵が描かれたものだ。黄瀬はがそんな可愛いものを持っているのに、驚いた。そしてそれが自分に手渡されることにも驚いた。
「はい、お誕生日おめっとーさん」
は何でもない風に、黄瀬に言った。黄瀬は呆気に取られた。
「へ?」
「つまらん物で悪いけど、誕生日プレゼント」
黄瀬の顔がぱぁ、と明るくなった。花が周りに飛んでいるかのように見えるほど、黄瀬は喜びを隠せずにいた。
「…………あ、ありがとう!」
「どういたしまして……………………後で私が居ないときに開けてな」
は眉を顰めてそう言った。黄瀬は首を傾げたが、快く了承した。
**
「ん?どうしたその紙袋」
森山が目敏く、黄瀬の持ち物に気付いた。
「あ、さんから、貰ったんスよ」
「へぇ…でも誕生日昨日だったろ?」
「ああ、知らなかったって、…意外でした。結構みんな知ってるし…なんか新鮮で」
何でもない風に黄瀬が言った言葉に、森山は眉を顰めた。
「まぁ、…お前はそうだよな…」
森山はげんなりした顔で言った。
「それよりも、ちゃんとプレゼントくれたことのが、意外だったんスけどね」
「あー…まぁ、女の子はこういうの好きだしな。本当に可愛いな…女の子は…」
黄瀬は普段通りの森山の様子に苦笑した。
「で、中身何なんだ?」
「さぁ…まだ見てないっス。なんか、さんがいないところで、って言われて…」
「ふぅん…」
森山はじっと紙袋を見つめた。
「気になるっスか?」
「気になるな。だって、ちゃんだろ?確かに、イメージに無いよなぁ」
黄瀬は森山の言葉に心の中で頷いた。
(結構女の子らしいとこあるんだな…)
黄瀬は無言で紙袋を引き寄せ、中の袋に手をかけた。
「………入浴剤、っスね。あ、手紙?」
職業柄、手紙を貰うことはよくある。だが、友人から貰うなど、初めてのことだった。黄瀬は手紙の封を切った。封と言っても、シールで貼ってあるだけだ。
中身を見て、黄瀬は口を押さえた。
(あの人、マジで女の子なんだ……!)
「どうした?」
「いえ、いや、なんか…予想外すぎて、マジ…………」
森山は、黄瀬の手の中にあるカードを覗き込んだ。
黄瀬君へ
お誕生日おめでとう!!
そして、生まれてきてくれてありがとう!
バスケとか、仕事とかで疲れるやろうと思ったので、
ゆっくりお風呂につかって、ゆっくり休めるように、
入浴剤にしました!
ほんまに、しっかり休むんやで。
あと、友達になってくれて、ほんまありがとう^^
カラフルなペンで書かれたコメント、シールで飾られた誕生日カード。
「まぁ、あの子、ウソとかは言わなそうだもんな…」
黄瀬の感極まる様子に、森山は茶化さずにそう言った。
「はい……俺、今までいろんな人に、こういうの貰ったけど…その中で一番嬉しいっス…」
黄瀬はのカードを両手で持って、顔を隠すように掲げた。
「良かったな」
「はい…」
「泣くなよ…」
「だって…俺、こんなに嬉しい誕生日、初めてかも…!」
黄瀬は涙声だった。
「良かったな…」
森山の言葉に、今度はこくこくと頷いた。
(俺、生まれてきて良かった……………!)
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