スラムダンク!






「え!?黄瀬君スラダン知らんの!?」

は叫んだ。バスケをしていて、スラムダンクを知らないなんて、と絶句した。

「あ、いや、……聞いたことはある…バスケの漫画…」

黄瀬の視線が泳ぐ。

「うん、あー…そっか、そうなんだ、そうなんだなー」

その程度の知識か、とは頷いた。その曖昧な答えに、黄瀬は微妙な顔をした。

「なんなんスか」
「結構、スラダンきっかけでバスケ始めた人っているんよ」
「へー…」

初耳っスと言いたいのを抑え、黄瀬は相槌を打った。

「黄瀬君のきっかけは?」
「俺!?…………………青峰っちに憧れ、て?」
「なんで疑問系なんだ…」

黄瀬は首を傾げ、視線を泳がせて、おずおずと答えた。そのしどろもどろな様子には呆れ顔をした。
は「青峰っち」を知らなかった。だが、おそらく元チームメイトだろうと目星を付け、話を聞いた。

「…………なんか、俺を負かしてくれる人、っていうの?を探してるときに…運命の出会い、っていうか…」
「乙女か…………!」

頬を染めて、言いにくそうに視線を逸らした黄瀬はあまりにも恋する乙女のようだった。は思わず黄瀬の頭に手刀を落とした。

「うー…だって、あん時俺、ほんと腐ってて、色々つまんなくて、あの人と、帝光のみんながキラキラして見えて…」
「そうかそうか」

は黄瀬の頭をさわさわと撫でた。黄瀬は気まずそうにしながら、為すがままになっている。

「なんで頭撫でるんスかー」
「いや、純情な涼太くんが可愛くてつい」
「なんスか、それー」




**




「って、ことがあったんスよ」

と同じクラスで、同じバスケ部である男、浅川に黄瀬は話した。基本的にメニューはレギュラーであろうと、なかろうと同じだ。

「おま…スラムダンクを知らない、だと……!?」
「いや、だから、知ってはいるんスよ」

浅川は目をひん剥いて言った。黄瀬は圧倒されて一歩後退した。

「そうだ、なんでお前はスラダンを知らないんだ……!」

と、森山が黄瀬の背後から音もなく現れた。クラスメイトは恐縮したように体を縮こまらせた。強豪・海常では、レギュラーはそれなりに崇められていた。

「お前、見とけよ」

と森山は言い、すぅと息を吸った。

「実はバスケを始めたきっかけはスラムダンクだ」

森山の声に、すっと、部員達の手が上がった。結構な数だ。その中には笠松もいた。

「ほら、見ろ!かくゆう、俺もそうだ!」

と、森山はどん、と己の胸を叩いた。

「……………っていうか、笠松先輩もっスか?」

黄瀬はおずおずと笠松に尋ねる。

浅川は既に遠くへ行っており、近くにいるのはレギュラーだけだ。

「ああ、まぁ…俺らの時は丁度再放送世代だしな…」

笠松はんー、と悩んだ後、そう答えた。

「そうそう、アニメな。バスケがしたいです…!って、滅茶苦茶序盤なのにインパクトありまくりだよな」
「確かに」

笠松は頷いた。そして、黄瀬を見た。

「で、なんでそんな話になったんだ?」
「いや、さんが、黄瀬君って漫画とか読まないの?って言って、じゃあスラダンも読んだことない?みたいな話になって…」

青峰の話も同時に思い出し、黄瀬は一人きまずくなった。だが、誰も気づかなかった。

「お前、読んでみろ、あれは不朽の名作だ」
「あ、今度借りることになったっス」

黄瀬は断る理由もないので、に借りることにした。
バスケ漫画を読みながら、なんでルールに疎いのだ、と尋ねると、は「キャラが解説してくれるから、何となく読める」と答えた。

「そういやさ、ジャンプってそのあとバスケ漫画やってなかった?」
「あー…なんだっけ…」

笠松と森山が考え込んでいると、早川がひょっこりと現れた。

「I’っすか?」

一瞬皆が考えた。
普段は、「ら」が抜けた状態から想像して会話をしている。だが、余りにも短い言葉からは想像ができなかった。

「へ?何?」
「だからっ!I wiの略でI'っすっ!」
「アイル?」
「だからそう言ってるのにっ!」

早川はぷりぷりと怒る。

「聞こえねー…」

いつの間にかそばに来ていた小堀が苦笑しながら言う。

「おぇ、バスケかサッカー悩んだんすよねっ!」

早川が先ほどの怒りなど忘れたように言った。切り替えが早いのは、彼の美点だ。

「なに、あれか、キャプ翼か」
「ホイッスルっすね!」
「懐かしー…」
「あれって、結局どうなったんだっけ?」
「覚えてないっすっ!」
「………………うん、確かに覚えてねー…」

先輩の会話に黄瀬は入れず、疎外感を覚えた。

「黄瀬って、漫画本当に読まないのか?」

森山が突然振り返って言った。

「あー…あんまり…」
「なんか、分かるわ」
「え?」

黄瀬の答えに、笠松が納得した顔を見せた。黄瀬はどうして?と首を傾げた。それに答えたのは小堀だ。

「確かに、『俺、ワンピだけ読んでます』ってタイプだよな」
「どういうタイプっスか!?」
「んー…いや、何となく、感覚的に」
『うわー分かる』




**




「って言われたんスけど!」

は、黄瀬に行ったことは全て先輩たちに伝わってしまうことに少し恐怖を覚えた。

「……………………………………………笠松先輩は、なかなか的を射たことを言うな…」
「えー…それって、さんも『分かる』ってこと?」

黄瀬は眉尻を下げて、どうして?どうして?という風にの答えを待っている。その様子を見て、「犬っぽい」と思ってしまうのは仕方ないことだ。

「うん、まぁ……はい、これスラダン、とI'll」

は紙袋を黄瀬に渡した。スラムダンク数冊と、I'LL数冊だ。

「あ、これ、昨日先輩が言ってたやつだ……っていうか、なんでこんなにバスケ漫画読んでてルール覚えないとか…!」
「いや、マジで、感覚で読めるんだって」
「えー……」

黄瀬が、もっとバスケに対して真剣になってください、とに抗議の目を向けた。

「今勉強中」
「勉強って…」

バスケに対して「勉強」という言葉を使われるのは、意外だった。

「だって…実際にやってみないと分かんないけど、スポーツ苦手だしあんまりやりたくないかなって」

スポーツいや、とは渋い顔をした。

「今度一緒にバスケしよ!手加減はするっスから」
「いや、手加減…!?黄瀬君が歩くスピードと、私が走るスピードは多分同じくらいだよ…!?」

の必死な様子に、黄瀬は苦笑いをした。

「いや、それは言い過ぎっしょ。俺、どんなに早いんスか」

は、右手をびしっと挙げた。黄瀬は不思議そうにを見た。

「黄瀬君はハンデとして笠松先輩を背負ってバスケしてください!」

は声を張ってそう言った。

「先輩を…!?」
「凄いシュール……」
「自分で言っておいて…!」

は自分の言ったことを想像して、げんなりした。せめて早川先輩にすれば良かった、と思ったが、あまり絵面は改善されなかった。

「黄瀬君はそれして楽しいの?ストレス堪らない?」
「うん?楽しいけど」

あっけらかんと、黄瀬は言った。は呆気に取られた。だが、すぐに気を取り直した。

「じゃあ、良いよ。今丁度授業でバスケやってるし、今度テストあるから、教えて欲しいことあるし」
「何のテスト?」
「えっとね、れいあっぷしゅぅと?」
「うわ、今全部ひらがなで聞こえたっス」
「えー」

黄瀬は苦笑した。が思い出しながら、不安げに言うレイアップシュートが、あまりにもたどたどしかったから。

「30秒シュートは、元バスケ部の女の子よりいっぱいシュート入ったんだよ!」
「へーえらいえらい」

どうだっ!とでもいうように大きく腕を上げては言った。黄瀬はの頭をよしよしと撫でた。

「バカにしてるでしょ…」
「してないっス!」

黄瀬はにっこりと笑った。




〜おまけ〜

「この主人公、早川先輩に似てるっスね」
「リバウンド命?」
「そうそう」





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